夢を見た。夢に出てきたあんたはとっても力強かった。自由奔放に生きているように"見えた"。そして、あんたにも私にも、大切な大切な人が"いた"。だからだろうね。あんたと私、姿は全く違うけど、生き方は鏡のようだと言われた。
でも、私はそうは思わない。あんたもそう思うよね、ネール=アルマーニ=ファリス。
その空間には、二人の女性が対峙していた。
「そうやってさぁ、あんたの行動にどれだけ迷惑している人がいると思ってんの? 少しは自分のことも考えなよ」
銀色の髪の、お世辞にも美少女だとは言い難い少女は容赦なくそう言い放った。
「やめなよ、エース。自分のことを棚に上げて。そして、君はもう少し他人のことも考えるべきだ」
鳶色の髪と鳶色の瞳が特徴的な青年が、今にも飛びかかりそうなエースの腕を掴み、必死に宥めようとしている。
「部外者は黙っていてよ」
しかし、拳は容赦なく飛んだ。それを肩で受け、よろけた"一応軍公"セーレ・アザトスは、エースを止めるのを早々に諦めた。賢い選択ではあるが、正義感が足りないとも言う。しかし、結局は自分の身が一番大事である。
「あんたには何も分かりはしないだろ。あんたにとっては、ただの師匠だった」
真紅の髪の女性、ネスの発する声は恐ろしく冷たい。
「分かるはずもないじゃん。私はあんたと違うし、私の師匠はあんたの師匠とは違う。冷静に考えなよ。自分が何をすべきかって。死人は何も語らないよ。結局は生きている人、つまり自分が重要なんだからね」
しかし、エースは怯まない。それどころか、さらなる攻勢をかける。
「生きている人が重要だとは思うが、生きている人イコール自分っていうのは、凄い論理の飛躍だな」
タクトは、無理矢理止めようとして失敗したセーレを見ていたので、少しずつエースの勢いを弱めようとする。
「分かっているね、そこの少年。後半部分がなければ素晴らしかった」
エースはタクトの言葉もさらりと流し、さらにきつい言葉を浴びせる。
「分かる? あんたがそんなことしても、誰も幸せにならないよ。自分で理解しているんだろう。認めたくないだけだろう」
「もうやめてください。エースさんっ」
温和な性格のラスが怒った。
夢の中で見た女性は、真紅の髪と瞳をしていた。力強い色と綺麗な白い肌の美女。私とは対照的な容姿をしていた。でも、傷だらけなところは同じだ。
故郷の者を目の前で亡くし、師まで亡くし、師の影を追い求める姿を見た。
何故、これ程までに苛々かるのだろう。
「そんなことをあんたの師が望んでいないことは分かっているだろうに」
必死に足掻いているけど、とてもとてもそれを師が望んでいるとは思えない。彼女もそれを理解しているだろう。それでも、彼女は止めない。
「私はあんたを恨むよ、師匠君。君の場合、死ぬことが何よりもの裏切りなんだからね」
依存させておいて、独りぼっちにはしてはいけないんだ。人間は弱い。依存は自分から脱却しなければ耐えられない。そして、進む道を違えたときに、止めてくれる人がいなくなる。
自由奔放な言動と振舞い、抜群の戦闘センス、それだけを見ていては分からない。それは、誰よりも私がよく理解しているよ。
そして私は漸く夢の女性、ネール=アルマーニ=ファリスに会うことができた。
ねぇ、"たたかおうよ"ネール=アルマーニ=ファリス。あんたは闘わないといけない。闘って闘って、あんたを縛り付ける全てを破壊しつくしてしまえばいい。
だから、まずは私と戦おう。ぶつかり合おう。私はあんたを縛り付けるものを破壊しようとするけど、私はそれを破壊することはできないだろう。破壊できるのはあんたの"闘い"だけだ。私との戦いでは破壊できない。でもきっと、私との戦いはあんたの闘いの切欠になる。
私はあんたを救えないけど、あんたの周りには、あんたに手を差し伸べてくれる人がたくさんいる。私とあんたが戦ったら、あんたの周りの人々はみんなあんたの味方につくだろう。それってすごく珍しいことだし、幸せなことだし、それだけあんたが大切に思われていて、魅力的だということなんだよ。
「ネール=アルマーニ=ファリス、ネスって呼んでくれ」
君とずっと会いたかったんだ、ネール=アルマーニ=ファリス。あんたの真紅の髪は本当に綺麗だと思う。本当に羨ましい。私の死んだような髪の色とは対照的な、生き生きとした色。
「私はエース・アラストル。よろしく、ネス」
「エース・アラストルってことは、エルだな。エルって呼ぶぞ」
さぁ、ネス。覚悟しておいて。私は容赦しないよ。