Unnatural Worlds
閑話




「ライアル、遅いわよ」
 ライアルが戻ると、ジェンが勝手に昼食を作り、皆食べていた。
「悪い」
 ライアルはそう言うと、テーブルに並んでいる料理を見た。トマトソースのかかったパスタ。ジェンは料理が上手だ。ライアルも作れないことはないが、ジェンには到底敵わない。
「魔法圧縮食料って便利よね」
 ライアルが席につくと、リリーがニコニコしながら言った。リリーはパスタが好きだったな、とライアルは思い出した。
「ライアルはこのぐらいですか」
 ジェンが軽く注ぐ。人参は入ってませんから、とジェンは笑った。
「ライアルとジェンって兄弟みたいだな」
 リィドがぼそりと呟いた。しかし、目はすっと細められていて、口元には僅かな笑みが浮かぶ。まるで、何かを試しているようなそんな微笑。
「こんな頼りないのが兄貴だったら困る」
「僕もライアルが弟は嫌です。苦労しそう」
 否定する二人を見てリリーとカシワは声を出して笑った。意見としては、ご尤もである。実際、ライアルとジェンの身長はほとんど変わらない。
「そういえばさ、ライアルって男?」
 カシワは笑いが収まった所で、ライアルに尋ねた。訊き方があまりにも軽い。一瞬冷たい汗が流れたのを感じつつ、ライアルは顔を顰める。
「男だ。失礼だな」
 ライアルが怒ったように言うと、カシワは苦笑いした。
「まぁ、女に見えなくもないわ」
 リリーが何回も頷きながら言った。ライアルはリリーを睨む。
「ふふっ、私はライアルよりジェンの方が女に見えるけど」
 アンはジェンとライアルを見比べながら言った。その素晴らしすぎるフォローに、ライアルはアンに礼を言おうと思った。
「よく言われますよ」
 ジェンは穏やかに笑う。
「僕は女にしか見えないけど」
 それまで黙っていたリィドがいきなり口を開いた。口元には僅かに弧が描かれている。どちらかと訊かれたリィドは、ライアル、と即答した。ライアルは、怪訝そうにリィドを見る。
「リィドも人のこと言えないと思うけど」
 アンは例の笑みを浮かべる。リィドが顔を顰めたのを、ライアルは確認した。確かに、リィドは、身長こそあるものの、体の線は細いし、何より肌の色が恐ろしく白い。
「でも、キナはライアルのことを妹と呼んでいますよね」
 ジェンが思い出したように言った。ジェンは、抜けているように見えて、そういうところは目聡い。
「そう、私も思った」
リリーもすかさず言う。ライアルは、とりあえず息をゆっくり吐き、それから話し出す。
「あぁ、それはな……姉さんは妹が欲しかったんだ」
 ライアルは自分でも、かなり無理のある言い訳だと思ったがしょうがない。とりあえず、アンには、既に気づかれているだろうから問題はない。リリーやジェン、カシワは大丈夫だろう。問題は、全くパスタを食べず、先ほどからお茶しか飲んでいないあの少年だけだ、とライアルは思った。
「キナが? 意外なところあるのね」
 リリーはにやりと笑った。それから何を喋っていたか、ライアルは覚えていない。ライアルはじろりとフードさえ取らない少年を睨んでいた。

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