日も高く昇ろうとしているころ、男部屋に女三人は遊びに行った。ジェンとリィドはお茶を飲んでいる。リィドは明らかに嫌そうな目でリリーたちを見る。
「あれ、ライアルは?」
そう尋ねれば、ジェンは微笑んで、起きてこないんですよ、と言った。リリーが隣を見ると、そこには緋色の塊。それにしても、うつ伏せとは、動物のような寝方である。
「ライアル、起きなさいよ」
近くに言って耳元で大声で叫んでも、全く動かない。
「ふふっ、死んだのかしら?」
「せめて、生きてるのかを訊こうぜ」
アンのあまりの一言に、カシワはそう言ったが、確かにライアルは死んでいるかのようだった。リリーは、さり気なくライアルの脈をチェックする。
「毛布を剥ぎ取りましょう」
リリーはぶわっと毛布を剥ぎ取る。すると、ライアルは僅かに不快感を表すかのように動いた。
しかし、その次の瞬間、空気が収束する。鋭い光が頭上を貫いたかと思うと、すぐに暗くなった。異様なほどの静けさ。光が戻った時には、毛布を被って寝ているライアルと、そのままの部屋があった。
魔法の相殺である。闇魔法でそれができるのはただ一人である。
「アン、助かりましたよ」
ジェンが溜息を吐く。こんな密室で雷が発生していれば、全員(アンを除く)命はなかっただろう。船も全壊すること間違い無しだ。
「それにしても、なんて迷惑なやつなの……」
確かに、とその場にいたほとんど全員が、リリーに共感した。ライアルは未だ、熟睡している。
そんなとき、アンがごそごそとマントのポケットから薬瓶を取り出した。何かとカシワが尋ねると、アンは薄らと笑って言った。
「眠気覚まし」
先に出せよ、というカシワの一言と皆の心の声に、アンは無気味に笑うだけだった。