タイラール行きの大型船。寝具調達のために、近道だからと言ってデッキを通ったのが間違いだった。ただ、ライアルとリィドの二人で取りに行ったのは正しかった。
「ジェン、連れて来なくて良かった」
「そんなこと言っている場合?」
二人は、十数匹の魔物に囲まれていた。
妖界は、魔物の数が半端ない。そして、人間と魔物の差もほとんどないのだ。
二人は背を向け合い、武器に手をかけて、回りを見渡す。人間のようだが、足はタコのような足である。しかし、言語能力はあるようだ。言語能力があれば、妖界言語統一魔法によって、言葉は通じる。
「お前たちは、魔界人だな」
「その髪と瞳、間違いない」
手にはめ込んだ爪が振り翳された。ライアルは剣でそれを止めながら、抑えていた魔法で、雷を落とす。一本の剣では追いつかない、と思っていると、魔物たちが凍った。
「抜群のコントロール力だな」
「無駄口叩いている暇はない」
リィドに迫った腕を突き刺す。びくりと腕を戻した隙に、リィドが氷の針をお見舞いする。体制を取り直したリィドが、再び周囲を凍らせている間に、決定打を与える時だと思ったライアルは、高々と高威力、前詠唱なしの雷の範囲魔法の名を呼ぶ。
「天雷の雨」
打ち付ける激しい紫電。静寂を取り戻したデッキに、黒く焦げた魔物の死体が残る。
「僕を殺す気?」
「まさか」
返り血がついたマントを忌々しげに見ながら、そう尋ねるリィドに、ライアルはけらけら笑いながら答えた。
「ジェンがいなくて良かっただろ」
「いたら、間違いなく君の魔法の餌食になっていただろうね」
船から見える壮大な夕焼けを見ながら、ライアルは笑った。