and The Cool Wizard
嫡男
「また、サクが抜け出した?」
カナンは、ランシアの言葉に、思いっきり目を細めた。
「一応理由付きですが」
「良いわ。どうせ、具合が悪いとか、魔力が不安定だとか、エルフの動向が不審だから視察だとか」
それも、さり気なく申し訳無さそうな動きを見せることが腹立たしい。
「今回は、今夜は庭の薔薇が綺麗だから、だそうです」
どこの詩人だよ、とカナンは思った。
「どうせ、問い詰めたところで、薔薇の花について永遠と語られるでしょうよ。誰に似たのかしら」
尋ねれば、何故か、ランシアはカナンの顔を見た。
エルフの森の奥。静かな大樹の影に、男が二人体を横たえていた。
「女にしてみれば、初夜の相手がトンズラなんて、最低な行いだよ、なぁ、サクサマ」
今頃、慣れない薄衣を着せられ、閨で緊張状態を強いられた哀れな姫君。そんな姫君に会いもせず、逃げてきた男は、シヴァの隣で夜を明かそうとしている。
「最初の二回ぐらいは真面目に相手をした」
言い訳をする気がさらさらないのが分かるぐらいやる気のない声。
「それで?」
「悪くはなかったけど、性に合わない」
確かに色事に溺れるような奴じゃないよな、とシヴァは思った。
「安心しろ、誰も女に骨抜きにされたお前を見たいと思わないからな。気持ち悪いだけだ。寿命が縮むな」
手にいれたいと思った女は、自ずと自分に近づいてくるように細工するタイプだ、とシヴァは思っている。四界の女性の平和のため、そのような哀れな女性が現れないことを祈るのみだ。
「面倒臭いと思わない? 大体、最近は取っ替え引っ替え相手を変えてくる」
どうやら、彼の両親も必死らしい。欠伸混じりの声に、何も見ていないような双眸。しかし、
「それに、シヴァ、僕はちゃんと言ったよ」
向けられた表情には、いつもの穏やかな微笑とはかけ離れた、不敵な笑み。
「妖界第二王女だったら、悪くないって」
「お前……」
妖界王女アン。妖界王位継承権第一位を持ち、その美貌、武勇、頭脳の全てにおいて、最も優れた女性と称される人。
そして、シヴァの隣で静かに目を閉じている青年は、彼女の同窓生。
シヴァは十分な間を取った後、言った。
「一回姫に殺されてこい」
こいつは男の敵だ。
最近仲良くなった精霊は、サクの名前を聞くや否や、何故か異様に嬉しそうな表情を浮かべた。そして、
「は? サクが女に高位守護魔法をかけた?」
シヴァは精神的にダメージを受けた。
「しかも、仕事で怪我された男を潰した? 天変地異だ……」
シヴァは、吐き気に襲われた。
「それで、相手は……ってフヨウ様?」
フヨウ。不思議な女剣士。綺麗といえないわけでもないが、番人受けするような人ではなかったはずだ。そして、何よりも
「そういう趣味だったのか……」
通りで、他の女に興味が持てないわけである。
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