The Night Monarch
In The Blue Rose


 兄上は寡黙なお方。そして。聡明です。ですから、兄上の進言を、父上が採用なさることも多いのです。
 しかし兄上は、何故か母上と父上を避けておいでなのです。理由をお尋ねしても、穏やかに微笑むだけでした。
 兄上は私にたくさんの隠し事をしています。兄上は私に微笑んでくれます。ですが、何も教えてくれないのです。尋ねても尋ねても、ただ微笑むだけなのです。


 兄上は二度ほど、長く家を開けることがございました。母上も父上も教えて下さりませんでした。兄上は何処にいらっしゃったのでしょうか。私は未だに分かりません。


 兄上がお帰りになり、二日程経ったある日、私はお庭で一人の剣士様と出会いました。そのお方、フヨウ様は、兄上のご友人だとおっしゃりました。
 兄上がご友人とお喋りを興じられているご様子などは、見たことがなかったので、私は失礼ながら、嬉しく思いました。
 フヨウ様は素敵なお方で、気品があり、高貴なお家のお方だ、と私は思います。よく御噺に御出でになるような、勇敢な御姫様なのでしよう。

 フヨウ様は長い緋色の髪を緩く括っておいでになります。目鼻立ちもはっきりとした方で、その姿は、青い薔薇の園の中で、引き立っておいででした。

 そんなフヨウ様を見ていると、不思議な気分がするのです。安らかな気持ちと、何かを考えないといけない、と思う心の焦り。それが混ざったような本当に不思議な感じ。
 私は無知ですが、薄々と勘付いていました。私たちが何者なのか。何故、私には友達がいないのか。何故、兄上は母上と父上を避けておいでなのか。それについて、私は知らなければいけないということを。私は、一人で想像しました。
 そんな時、ふと空を見ると、空が真っ黒になっていました。空には小さな光がたくさん輝いていて、大きな丸い球が浮かんでいます。とても綺麗で、とても静かで、心地良いのですが、何故だか胸騒ぎのする、そんな空でした。
 あれは、一体何だったのでしょうか。ただ、あの空を見たとき、緋色の髪が揺れ、草原色の瞳が細められた気がしたのです。フヨウ様。あのお方に誘われるように、私は初めて、門の外へ出ました。


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NEO HIMEISM

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