The Night Monarch
The Boy of Ice


 一人旅は怖い。目立たないように、船では一人と悟られないように、そうやって行動してきたはずだった。だけど、民族名を尋ねられて、答えられなくて、遥かなる大地の人間だと気付かれてしまった。
 大きな人ばかりで怖かった。彼らが言うように、遥かなる大地の者は、野蛮な民族なのだろうか。文字を持っていないから、下等な民族なのだろうか。
 愚問だ。違うに決まってる。遥かなる大地の方がいつでも、踊りや音楽や美術、新しい魔法を生み出していた。四界の人々が使っている道具も、遥かなる大地で作っている。領主制の国々よりも治安も良いし、争いも起こらない。たくさんの民族が暮らしていても、遥かなる大地は平和だ。
 こいつらは馬鹿だ。俺は悪くない。分かっていても、罵り声が怖くて、蹴られたところが痛くて、泣いてしまった。情けない。自分をそう叱咤しても、涙は流れ続ける。
 そんな俺を助けてくれたのは、背の高い女の人。どこにいたのか、ふらりとデッキに現れた、遥かなる大地の人。とても強くて、剣だけで次々と相手を倒していった。レイピアとククリ。性質の違う二つの刃物を上手く利用していた。
 夜の中、舞うようだった。華麗、というよりは、優美という言葉が似合う。見惚れてしまう。そして、見惚れていると、悲しくなったり、妙に腹立ったり、忘れたことを思い出しそうになったりする。それは不快ではないけど、快感でもない。兎に角、不思議な感覚。でも、それはどこかで知っている気がした。
 俺は今、何をやらないといけないのだろう。感情は高ぶるが、その反面、妙に冷静だ。俺は立ち上がり、やるべきことをするために走り出した。

 穏やかな笑顔を浮かべるその女性は、フヨウ様と言うらしい。綺麗で、穏やかで、優しかった。年はどのぐらいなのだろうか。二十はいっていると思う。一人で旅をしているのだろうか。
 一人で旅をしているのなら、次は、一緒に旅をしてくれるように頼もう。未だに、あの緋色、あの草原色、あの穏やかな笑みが、脳裏に焼きついたきり、離れない。俺は、あの人のことを知りたい。

背景素材
ふるるか

戻る