The Night Monarch
Blue Sky


 船で会った時、凄い女性だと思った。歩き方とか、座り方とか、エスコートの仕方とか、全て紳士だった。魔界にこんな人がいたんだ、と少し驚いた。
 笑顔は穏やかで落ち着いていて、てっきり年上だと思っていた。サクと顔見知りみたいだったから、仲間に誘った。どうやらサクに弱みを握られているみたい。そんな少し間抜けなところも面白い。そんな彼女は、私より二つ年下だった。
「クリス嬢、何を考えているのかね」
 フヨウは、マグカップをテーブルに置き、穏やかな、彼女特有の笑顔を私に向けた。
「いつも何か考えてるのは、フヨウじゃない」
  ジェイクと違って、フヨウは敏感で、思慮深い。いつも空を見上げながら、何かを考えている。私なんかより、フヨウの方がいつも何かを考えている。
 フヨウは微笑んだ。
「私は、いつもぼんやりとしているよ」
「ぼんやりとしているということは、考えているってことじゃないの」
 ジェイクのぼんやりと、あんたのぼんやりと違うでしょ、と言ってやりたい。だけど、それではあまりにもジェイクが可哀想だから、私はやめることにした。
 私がそんなことを考えていると、フヨウは口を開いた。
「私は感じているんだよ。クリス嬢」
 そう言って、フヨウはテラスから空を見やる。
 今だってそうだ。フヨウはいつだって大きくて、抽象的な何かを見て、考えている。でも、感じるということは、厳密に言うのなら、正しいのかもしれない。フヨウの見ている物は、考えるという言葉で表せない程、大きいのかもしれない。
「そろそろ行こうか。ジェイク殿も、サク殿相手に三時間は酷だろう」
 町の噴水前で、男二人と別れたのは三時間前。二人はぶらぶらと飲み食いをすると言っていた。
「意外、男同士仲良いみたいよ。全然違うけど」
 ジェイクとサクは仲が良い。性格は正反対だが、二人は良く喋る。特に、フヨウが仲間に入ってからは、私とフヨウが二人で入ることが多くなったからなおさらだ。
「サク殿は、ジェイク殿から、あの和やかさを学ぶべきだと思うよ」
「これ以上に、表面だけが和やかになっても困るじゃない」
 苦笑いをするフヨウに、笑顔を投げかける。表面だけの穏やかさには、気付いている。サクは、微笑みながら、鋭く何かに目を光らせている。ジェイクには、こんな話はできないけど、フヨウにならできる。
「そうだね。滑稽になるだけだ」
 フヨウは微笑み、続けた。
「その滑稽さが分からないからこそ、ジェイク殿はサク殿とやっていけるんだね」
 仮面を被った道化師のような青年に、違和感を感じないジェイクは、ある意味尊敬に値すると私は思う。それが幸か不幸か、私には分からないけど、ジェイクはそれで良いと思う。
「あいつは何も見えていないからね」
 呆れたように言ってみれば、フヨウは穏やかな笑みを浮かべた。
「見え過ぎるのも困り物ではあるけどね」
 困ったように笑うフヨウは、多分、私よりずっとたくさんの物が見えて、それ故、苦労しているのかも知れない。

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ふるるか

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