Unnatural Worlds
第二部 龍の炎
第一章 勇敢と優麗
光と闇の姉弟




「一瞬だけ魔界へ、行けるようにする。流石に、妖界は難しいからな」
 キナは、早速準備をするように言った。ライアルはスザクを連れ、瞬間移動用の魔法陣に向かった。
 腰にはレードを下げる。パンと水筒は革の小さな鞄。鞄を腰に括りつけ、スザクを撫でた。そして、真紅のマントを羽織る。真紅に描かれていた円い輪とクロスが重なり合う印が揺れた。
 地下にある魔法陣の周りに、既に他の人間は到着していた。
「じゃあ、気をつけろよ」
 丁寧に描かれた魔法陣の前でチャーリーは笑顔でリリーに言った。
「妖界王ぶっ飛ばし隊、行ってくるわよ」
 リリーが元気良く答える。空色の瞳は輝いている。
「リリー、いつの間にか名前変わっているぞ」
 チャーリーが声を上げて笑った。リリーも嬉しそうに笑い返す。
 喧嘩が多くても、二人は仲が良いということは、ライアルも重々承知のことであった。
 それぞれの会話聞いていると、ライアルは名前を呼ばれた。
「力は使うな」
 キナだった。その声は普段より数段低かった。
 ライアルは押し黙る。地下の嫌な臭いが鼻をついた。
「姉さん、私は……」
「お前の意思など訊いていない」
 ぴしゃりとキナは言い、立ち去った。銀の髪がふわりと揺れた。
「基本的性質は、やつと似ている気がするんだが」
『歪曲した性格は、そっくりだと思うよ』
 ライアルは声を潜めて囁く。そして、冷たい壁に凭れ掛かる。
「元気ないですね」
 ふらりと現われたのは、ジェンだった。いつものように、穏やかな笑顔を浮かべている。
「姉さんに訊いてくれ」
 ライアルは不貞腐れたように、ぼそりと呟く。
「ふふっ、無視すればいいのに」
 ふらりと現われるのはアンである。
「ライアル、何をぼーっとしているのよ。そんなことしている暇はないわ」
 突然振り返ったリリーは、笑顔でライアル近づき、その腕を取って肩を組む。ライアルは爪先立ちをしながらにやりと笑った。
「ライアル、身長低いじゃねぇか。リリーは抜かせよ」
 けらけらと笑うのは、特別塔で一番背の高い魔法使いであるチャーリーである。ライアルの頭を軽く叩き、にやりと笑う。
「頑張れ」
 軽く肩を叩いて、囁くような小さい声で呟くのは、パークス。
「本当に、貴方の雷魔法がなければ、妖界城突破は不可能です。頼りにしてますよ」
 ジェンは優しく微笑んだ。
『ほら、ライちゃん』
「あぁ」
 しっかりとした声。紫電が流れる。
 魔法陣から光が出た。そして、四人は消えた。誰も知らなかった。実は消えたのは、五人だと言うことを。

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