「あれ? ここは……」
リリーはきょろきょろと辺りを見渡す。綺麗な森、日が差し込み透き通った池が光っている。
「雷の国。姉さんの話を聞いてたか?」
ライアルがそう言うと、リリーは聞いてるはずないじゃないの、と開き直る。
「何だよ」
聞きなれない声がした。四人が後ろを向くと、そこには黒髪の少女が座り込んでいた。くるりと曲がった髪は特徴的だ。
瞳はライアルの草原のような淡い緑ではなく、森林を連想させるような深い緑色だった。
「誰?」
リリーがライアルに尋ねる。ライアルは首を傾げた。
「俺の名前はカシワだ」
少女、カシワはライアルを睨む。
「まさか覚えてないとか言わないよな、お前」
「私か?」
ライアルは訝しげにカシワを見る。
『ライちゃん、あの人誰?』
「ライアル、知り合いですか?」
スザクとジェンが尋ねたが、ライアルは首を傾げた。
「俺は一ヶ月前の夜、お前に気絶させられたんだよ。昨日見て全て思い出したさ」
「あぁっ、思い出した」
ライアルにとっては、それほど重大なことではなかった。それはカシワにもすぐ理解できるようなものだった。
「ふざけるな」
カシワは怒鳴り、ライアルに殴りかかった。ライアルは腕で軽くそれを止める。身長は、ライアルの方がずっと高い。
「落ち着いて下さい、カシワさん」
『ライちゃん、ちゃんと謝って』
ライアルの腕の膨らみがもぞもぞ動く。
「あの時は悪かった」
ライアルは謝ったが、カシワは一向に引かない。許すはずがないだろう、と怒鳴り続ける。
ライアルの体に紫電が走り始めた。ジェンは横目でそれを見ながら苦笑いをする。雲行きも怪しくなっていく。厚い灰色の雲が空を覆い、時々紫電が走り回る。仄かな草原色は大きくなっていく一方だ。
リリーも苦笑いをしながら、ライアルから一歩遠ざかる。
アンは相変わらず不気味に笑う。確実に楽しんでいる、とジェンとリリーは思った。
「あのな……」
ライアルは、掌に溜まった雷を地面に叩きつけた。轟音と共に土煙が上がる。しかし、すぐに強い風が吹き、土煙を吹き飛ばした。
「カシワさん、そろそろライアルの堪忍袋の緒が切れます。ライアルは十四歳ですけど、かなり強いです。剣を抜かれたり、魔法を使われたりしたら、僕の手には負えません。その前に、何故ここにいるか説明して頂けませんか?」
ジェンは、咳き込みながらも、諌めるように優しく言った。ライアルは仏頂面で空を仰ぎ、リリーは、もう切れてるでしょ、と呟いた。