「あっ……あぁ」
カシワは大きく窪んだ大地を見る。
「ジェン、その言い方だとまるで私が、短気で力だけの餓鬼だ、と言っているようだ」
ライアルはジェンの方を見てにやりと笑った。
「そう言っているのよ」
リリーの言葉をライアルは無視した。
「私は昨日、広間であんたを見て思い出した。そして、今日あんたを見つけたもんで、こっそり後をつけていたら、真っ白になって気がついたらここにいた」
カシワは落ち着いて話した。低めの声は穏やかで、彼女が普段から怒鳴ったりすることのない人間だと言うことが、四人にも分かった。
「瞬間移動に巻き込まれちゃったのね」
リリーは、気の毒に、というように言った。
「魔界、天界間は、移動可能なはずだ。リリーの実家に送ろう」
ライアルはジェンに真面目な声で言う。
「その方が良いと思います。世界人の子です。巻き込むわけにはいきません」
ジェンも同意する。しかし、カシワは再び怒鳴った。
「ちょっと待った。俺は絶対に嫌だ」
「世界人は足手纏いにしかならない」
ライアルは冷たく言い放った。ジェンとリリーは非難の目で、ライアルを見る。
『ライちゃん、もっと優しく言わないと』
「そんな言い方はないです。ライアル」
「ライアルも正論だわ。でも、他に言い方があるでしょう」
ライアルは相変わらず表情を変えない。
「世界人とか魔界人とか天界人とか妖界人とか関係ないだろ」
カシワが低い声で言った。
「妖界の危険さが分かってないだろう。魔界でも内戦が続いていて、暗殺集団守手もある。危険なんだ。私たちだけでお前を守れるわけではない」
ライアルも低く、無機質な声で言った。しかし、その声は普段よりも小さかった。
「死ぬ覚悟は出来ている」
「死んでもらったら困るんだ。お前は、生きる権利をなくしていない」
そのときリリーとジェンは、何故ライアルが同行させたがらないか、その理由に気がついた。
ライアルは一ヶ月前、ハヤが死んだことを引き摺っているのだ。それなら話が違う。ライアルは単にカシワが足手まといになるのが嫌なわけではなく、学校の仲間が死ぬのが嫌なのだ。
『ライちゃん』
スザクもライアルの心中を察しているのか心配そうに言った。
ライアルは、お世辞にも精神が強い方だとは言い難い。
「そういえばアンは?」
ジェンが後ろを向くと、アンは不気味な微笑を浮かべながら、カシワとライアルを見ていた。別に止める気もなさそうだ。
「何故そんなに行きたがる」
暗い世界が光った。すぐに轟音がする。
しかし、カシワもそのぐらいで怯む人間ではなかった。
「じゃあ、何でそんなに行かせたくないんだ」
銀が光った。特有の音と共に、カシワの前にはレードの先端が向けられる。殺気と共に。
「もしこうなったら、どうするんだ」
ライアルの草原色は、恐ろしいほど光っていた。アン以外の三人は、息を呑む。突き刺さるような力が働き、その場の時間を止めているかのようだった。
しかし、それは壊される。
「要するに死なさなければいいんだよね」
高めの少年の声が響いた。
その声はまるで氷の様で、綺麗だが、とても冷たい声だった。