Unnatural Worlds

雷鳴の領主

013

 空は晴天だった。
「何故、あなたが……」
 父である領主が生きていた頃、それりに自由気ままに暮らしていたクロウは、思いがけない人と再会した。
「クロウ、可愛いだろう?」
 クロウのよく見知った男は、これまたよく見知った夫婦によく似た幼児を抱えていた。幼児は、よく男に懐いているらしく、きゃっきゃと騒いでいる。
「セイハイの血を引いているが、セイハイには堕ちないだろう」
 幼児は、漸く、クロウの存在に気付いたらしい。
「教えるつもりですか? 全てを」
 男は、緋色の髪を撫ぜてから、ゆっくりと首を横に振る。
「こいつだけでも……」
 幸せに生きて欲しい、と男は続け、そして綺麗に微笑んだ。

 あれから数年の時が経った。男にあやされていた幼子は、今は一国を率いる領主として、大地を駆け回っている。


 クロウは、軍を待機させ、自身は高い岩の上に腰を下ろしていた。勿論、隣には側近のシキを置く。
「コウノトリ、ですか」
 クロウは、空高く飛ぶコウノトリを見上げる。
「ハゲコウノトリ《マラボウストーク》。あの男、本当に禿げてしまえば良いものの……」
 金色の髪を持つ長身の男。いつも綺麗に笑い、酷く優しく、それ故、残酷だった。最後に会ったのは、いつだったかは覚えていない。しかし、クロウは、その姿を、未だにはっきりと記憶している。
「クロウ様、流石に可哀想に御座いますよ」
 マラボウストークを知っているシキは、困ったように笑う。
「私は決めたのです。あの男を絶対に探し出します。きっと、近くにいるはずです。私が軍を率いている。それも、氷の国と戦うためにですよ。私の騎士であり、私の敵であるあの男が、来ないはずがありません」
 マラボウストークは、一度はクロウに忠誠を誓った。
「四界で二番目に強い男ですよ。あの男は、必ず来ます」
 美しいヴァンパイアの王は、妖艶に笑う。


 ライアルは森を駆け抜けていた。
<案内したが?>
 部下からの報告を聞きながら、全速力で走り抜ける。森の中は瞬間移動ができないので、走るしかない。
「ガンは城に入ったか?」
<中に入れさせて頂きました……しかし、一つ、気になることがありまして>
 何だ、とライアルは顔を顰める。厄介事は無い方が良い。特に、今のような切迫した状況では、対応しきれないことの方が多い。
<最上階の部屋への扉が、完全に閉まっているんですよ>
「それは良い。とりあえず、なるべく上に案内しておけよ」
 ライアルは、小さく溜息を吐くと、すぐに指示を出す。何故閉まっているかは分からないが、閉まっているぐらいなら問題は無い。セイハイ城に敵が潜伏しているとは考えにくい。何しろ、森の中にある城に行くと、空からでも飛んで来ない限り、確実にエルフに見つかる。
 そう、空から飛んで来ない限りは。
「どうするおつもりですか?」
<城ごと破壊する。全員避難しておけよ>
 ライアルは、目を細めた。木々の陰からちらつくのは、白亜の城。未だに光は衰えず、朽ちること無き永遠の城。
 ライアルは、それを壊すのに躊躇いは無い。美しい城が、今を生きるエルフたちの命と比べられるはずがない。


 魔界火の国の首都、魔法の町。この名づける気が無かったとしか言いようがない名前の町に、ジェンとパークスはいた。二人共、嫌な胸騒ぎがしたので、急いで通信を繋ごうとした。
<ライアルは、どうした?>
 その甲斐あってか、漸く繋がった連絡。ジェンは、起きていることを簡単に伝えるが、四楼キナは、その状況について一切説明をせずに、そう尋ねた。
「霧の国が氷の国と結んで雷の国へ侵攻。ライアルは、火の国に援助を依頼。北方を火の国の軍隊で牽制して、西方南方から来た敵は、セイハイ城に集めて殲滅するそうです」
 ジェンも、言いたいことはあったが、今、この状況で話をややこしくさせると、取り返しのつかないことに繋がる、と思って、自制して、余計なことを一切言わずに説明した。
<セイハイ城?>
 怪訝そうな声が返ってくる。
<ジェン、ライアルを止めろ>
 そして、僅かな間の後、有無を言わさぬ口調で、四楼キナは、弟子にそう命じた。ジェンは、表情を僅かに歪める。
「はっきりとした理由は分かりませんが、もう既に指示を飛ばした後で……」
<火の国使って全滅させれば良い話だろう>
 敬愛する師のその言葉に、ジェンはついに我慢の限界に達した。藍色の大きな瞳を思いっきり細め、穏やかな声が荒くなる。
「ライアルは、軍事面では、あなたより優れているはずです」
 僅かな間が空いた。
<お前に口出しされる筋合いはない。実戦経験のないお前に……>
 酷く低い声が、僅かに震えていた。
「誰ですか? 僕に実践的な政治学を教えるのを避けてきた人は? あなたが、僕に何も教える気が無かったことは分かっています」
<兎に角、黙って言うことを聞け>
 キナは声を荒らげた。しかし、ジェンはいつものように謝ることはしなかった。
 ジェンはゆっくりと息を吐く。
「説明して下さい」
 嫌な沈黙が流れる。
「説明して下さい」
 幾分か落ち着いた声で、ジェンは再び言った。

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