Unnatural Worlds
雷鳴の領主
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エルフは、悪いセイハイ族に虐げられていました。
でも、悪いセイハイばかりではなくて、良いセイハイもいました。良いセイハイは、強い剣士と一緒に、悪いセイハイを懲らしめてくれました。
強い剣士の名前は、フヨウ。銀色の大きな鷲に乗って、城にやってきました。
「サリー、あなた四楼が権力失おうと何をしようと、どうでも良いでしょう」
四界の力を汲みだすことができなくなることと、四楼が権力を失うことは、直結する。しかし、サリーにとっては、それ程気になることではなかった。気にならないようにしている、という方が正しい。
「あなたは良くないの?」
サリーの質問に、アンは頷いた。僅かに、いつもの不気味な笑みが薄れる。
「あの男の言う通り、何れは失うべきだわ……だけど、まだ早い。今、四楼が権力を失ったところで、良いことは何もないわ。四楼のおかげで保たれている均衡。私はそれを壊す気はないわ。折角、可愛い子に会ったのに」
あの男とは、マラボウストークのことだろう。サリーには、アンの考えは分からない。王太子と王女の違いは大きいのだ。
そして、四楼キナの権力があるからこそ、アンは魔法学校にいることができる。アンはサリーと違って、望んで魔法学校で生活をしている。
「"形無き物"が一番恐ろしい。あの男の主張はそれよ。私もそれには同意するわ」
妖界王太子は、青空など見ることのできない、未だ厚い雲が空を覆う灰色の世界で、紅色の髪を掻き分ける。
「だけどね、あの男がやってきたこと……あの男の計画が、これから一体どれだけ犠牲を要するのかは分からないし、あの男がやって来たことの意図も分からない」
最強の軍事力を誇る妖界。四界一の実力者として四界に君臨してきた妖界王。その座を継ぐ妖界王太子が、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
全ての能力において、姉である自分を上回るアン。彼女の見たことも無かった表情を見て、サリーは見えぬ「夜明けの全体像」に恐怖した。犠牲、それがただ一人の死などということはありえない。アンがこれだけ表情を崩しているのだ。
その犠牲が、四界大戦のような規模のものでもおかしくは無い。
青い薔薇園には、霧の国と氷の国の兵士たちがいた。
「一番恐ろしい物は、形無き物だ」
ライアルは、薔薇の生垣に身を潜めながら、目の前にある薔薇の花に手をかける。青い薔薇は、自然では考えられないような色彩を持っている。
『マラ兄ちゃんが、よく言っていたよね』
「自分に流れる血ながら、私は恐ろしいと思うよ」
ライアルはスザクの言葉に同意し、純白の城を見上げた。
マラボウストーク。ライアルは彼の顔を忘れてしまったが、彼の存在は覚えている。
「手入れをしない城は朽ち果てる。そして、自然に還るはずだ」
『不気味だね』
美しい白の光を放つ城。それは、何年もの間、否、何十年もの間、朽ちることも、その美しさを衰えさせることもなく佇んでいる。
「さぁ、壊しに行こうか」
この気味の悪い城を、と続け、ライアルは笑った。かつて、彼女と同じ緋色の髪と草原色の瞳を持った女と同じように、ただ、彼女に愛された男と瓜二つの笑顔を浮かべた。
セイハイ城には地下牢がある。エルフは、全員そこに閉じ込められたらしい。あとは、しっかりと魔法を調節して、地下に到達しないようにするだけだ、と思い、ライアルは集中していた。
「ライアル、何をしているのかしら」
背後に妖界王太子アンが現れたことに気付かぬほどに。
「この城を破壊しようと思ってな」
瞬間移動以降、会っていなかったアンの突然の登場に驚きつつも、事情を聞くのは後回しにして、ライアルはそう答えた。
「エルフは?」
ライアルは、そう尋ねてくるアンを見た。
アンと青い薔薇の咲く幻想的な光景は、あまりにも合っていなかった。幻想の中の現実のように、アンの紅い髪はくっきりと浮き立って見える。
「地下牢に全て閉じ込められているはずだ。あとは、合図が来たら……」
「地下まであなたの魔法が侵食しないように手伝ってあげるわ」
アンは鮮やかな青の薔薇を背景に、純白の白の砂の敷かれた地面に広がるライアルの手の上に、自らの白く美しい手をかざす。
ライアルは、アンを信用している。かつて、ライアルの愛する魔界を破壊した将軍であることを知りながら、ライアルに彼女を恨む気はほとんどない。それどころか、彼女が魔界内のことで、自分に不利益なことをするなど、考えてもいない。
それが酷く不自然なことに気付いたのは、妹とライアルが見える場所から二人を見下ろしていた姉一人だけだった。
アンは、魔法学校にいることに拘っていた。そして、ライアルといつも一緒にいる。二人は本当に仲が良い。サリーには、寡黙で冷酷で微笑みさえもしなかった頃のアンと同一人物であるとは思えない程、ライアルの前ではよく喋り、よく笑った。
そして、セイハイ。サク・セイハイとアン。セイハイの生き残りであるライアル。
それらの情報から、ぼんやりと浮かんできていた考えは、確信に変わる。
アンは、ライアルと魔法学校入学よりも前に、接触している。
サリーは、そう思いながら、ライアルに手を貸す、誇り高い妖界王太子の姿を見ていた。
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