Unnatural Worlds
勇気の色
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世界は四つある。天界、妖界、魔界、そして世界だ。
この四つの世界は四人の若者によって作られ、その四人の若者は守護者となった。そして、四人の若者を遣わせた王は、後に四人の神子を生んだ。王の血を引く四人の王子王女とその子孫は、四人の守護者に仕えることが定められているという。
これは、世界以外のすべての世界の者が知る四界の誕生神話である。しかし、その物語をそのまま信じている者はほとんどいないと言っても良いだろう。四界が誕生するよりも前に王家があるはずもない、と。
しかし、四人の人間が四界の守護者となったという話を信じている者は多い。だから、四界の声を聞き、四界の魔法を自由に使うセイハイが、魔界で権力を握ることができたのだ。
慰霊祭準備に当たっていないライアルは、二人が自分のことで頭を悩ませているなど露知らず、暇を持て余していた。サボりの木と呼ばれる中庭の木の上で眠っていたのだ。
しかし、長く眠ることはできなかった。
「俺はそうは思わねぇって言ってやっただけだろ」
中性的な力強い声は、ライアルを起こすには十分な声量だった。ライアルが目を細めて下を見ると、木の根元に数人の男女と一人の少女がいた。自分を囲む数人の男女を睨みつけるその姿に、ライアルはすぐにそれが"いじめ"だと分かった。
ライアルは体を起こすと、狙いを定めて飛び降りた。ぶあっという音と共に、突然降りてきたライアルに対し、一般生は怯んだ。ライアルは得体の知れない異界の者であり、彼らとはほとんど接点を持たない者だった。そんな彼が、突然姿を現したとなると、驚くのは当然のことだった。
「おいおい、何しているんだ。油売っている暇あったら、ちゃんと働けよ。こっちは出席もしない慰霊祭のために働かされているんだからな」
ライアルは男にしては高めの声で挑発的に言う。
自分は慰霊祭の準備など全くせずに、暇を持て余して寝ていたのだが、暇になった原因を作ったのは慰霊祭だ。ライアルは自分が文句を言う権利を持っていると思っていた。
そして、何よりも、見ていて気持ちの良い物ではない。
慌てて散り散りになっていく生徒を鼻で笑いつつ、最後に残った少女の腕を掴む。
「私はライアルだよ、ライアル。特別塔の魔法使い。お前は何ていう名前だ?」
ライアルは、少女が恐怖の表情を浮かべていると思ったが、実際は驚いた顔をしていた。
「俺はカシワ。キリュウが姓、カシワが名前。ところで、その髪は地毛なのか」
恐怖の表情を見せずに、ただ純粋にいきなり腕を掴まれ、話しかけられたことに動揺している。ライアルは、これはおもしろい、と思いにやりと笑った。ライアルは一般生が嫌いなわけではない。可能であれば話したいと思っていた。
「地毛だぞ。ああ、先に言っとくがアンも地毛だ。あの紅い髪の美女な」
とりあえず、一番信じがたいであろう色、特別教室でも目を引く色の髪を持つ友人の名を挙げる。カシワは、さらに驚いた顔をしていたが、すぐに平静に戻るとぼそりと言った。
「髪染めている不良生徒ばっかりだと思っていてごめんな」
「不良生徒ばかりというのは否定しないが、ジェンはどうなるんだよ」
ジェンは一般生の必修授業も担当している。何故、ライアルがそのことを知っているかというと、ジェンが一般生に授業している間に悪さをすると、すぐにキナに連絡がいくからだ。それだけは避けなければいけない、とライアルは思っていた。
「頭だけ老けたと思っていた」
ライアルは一頻カシワと笑う。そして、じゃあな、ライアル、といって、仕事に戻っていくカシワの後ろ姿を見ながら、ライアルは考えた。
一般生には、魔界や妖界、天界で普通の髪の色が、異常なのだ。もし、サク・セイハイとアンが生徒として存在していたのならば、それを記憶しない者はいない。
「だから、全員を殺したんだな」
知られてはいけなかったのか、と思う。しかし、それと同時に疑問がわき上がる。ライアルは、今は良いのだろうか、と思いひやりとした。
妖界城の玉座の間に、男と少女がいた。
「アン、魔法学校に行け。奴らがいれば、すぐに探し出すことができるはずだ。様子を見てこい」
玉座に座る男は、自分に対し頭も下げぬ少女に向かってそう言った。少女は、不快そうに表情を歪める。
「同級生をつけてやる。セイハイの御曹司だ」
「要らない」
少女は男の提案に即答した。
「そう言うな。楽しい学校生活において、愉快な仲間は必須だ。白亜の王城から彼を攫い、魔法学校にぶち込むのは、簡単な仕事ではなかったのだから」
困った困った、とでもいうような言い方とは反対に、その顔には笑顔が浮かんでいた。
「青薔薇の操り人形が、私の同級生に相応しいと?」
対する少女の方は、不機嫌そうに聞き返す。
「ただの青薔薇の操り人形ではない。反逆王家の友に相応しい反逆の芽だ。操られるのを待っている人形ではない。アン、お前は生まれながらの反逆者だ。しかし、あの男は、反逆者になる要素を孕んでいる」
男の言葉に少女の表情が変わった。不快な表情が無表情に変わる。無愛想と言われている彼女だが、父親に似て人と関わることを好む。青薔薇の操り人形になることを拒む少年に対して、興味がわいたのだ。
「魔法学校の生徒は消して良い?」
「消さざるを得ないだろうな。今の魔法学校ではな」
赤茶色の髪に暗い色の瞳。世界を歩いていても誰も振り返らないであろう色彩を持った王は、他人事のように笑った。
「へぇー、貴女様がアン王太子殿下で御座いますか。僕はサク・セイハイです。宜しくお願いします」
銀色の髪に青い瞳という、美しい色彩を持った少年は、その色彩に相応しい顔をしていなかった。平凡な顔の少年だったのだ。しかし、平凡な人間ではないことは一目で分かるものだった。
妖界王太子に屈しないその態度は、彼が愚者である証拠なのか、それとも只者ではないということなのか、妖界王太子は計りかねた。
「こちらへどうぞ、御姫様」
しかしながら、恭しく差し伸べられた手を取ってやったのは、彼女の気分でしかなかった。
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