「よし、とりあえず私の家に行く。そこで、渡すものがある」
ライアルはリリーとジェンを見て、礼を言うように笑った。細まった黄緑色の瞳には、自信が戻ってきていた。
「渡すものってやっぱり食べ物?」
リリーが目を輝かせて訊くが、ライアルは違う、と一言で片付けた。文句を言うリリーと、ライアルは笑い合う。
再び空が明るくなっていく。
「リィドさんは氷魔法が得意ですよね。カシワさんは?」
ジェンはにこにこと笑いながら、カシワに尋ねた。
「医療魔法だな……風に関係する魔法も得意だ」
ジェンの笑顔に、カシワの顔も綻ぶ。明るい声でそう言い切った。
「ふふっ、良かったわね。この中で医療魔法が使う人は二人だけよ。私は、使えるけど使う気がしないし、ライアルは使えないわ。多分、氷魔法も医療魔法と相性悪いって聞くから、氷原様も無理でしょう」
アンの言葉に、ライアルは頷いた。
「確かに、僕は医療魔法が全く使えない」
リィドはくすりと笑う。
「使う気がないって……」
ジェンはそう呟くが、アンは無視した。ライアルはそんな二人を見て、声を上げて笑う。ジェンが理由を尋ねるが、ライアルは、観光案内をするか、と言い話を逸らす。
「雷の国は、荒地ばかりじゃない。このように森もあるんだ。雷の国の森には、エルフがいる。昔はセイハイ族が荒地に住んでいたが、今は森のエルフだけだ」
柔かい草と、柔かい日差し。ライアルは、花や木の説明をした。
「ライアル、あんた意外に物知りじゃないの」
紅い大きな花の名前の由来を説明し終えたライアルの肩を、リリーは軽く叩く。
「教えてくれたやつがいたんだ」
ライアルは再び歩き出す。それぞれが自分なりの速さで歩き始めた。
「アスカロンの花……花言葉は、再会だったね」
白く細い指が赤い花を摘む。簡単に取った花を、氷の少年は顔の前まで上げる。
「紅い再会。良い響きはしないね」
まるで、見下したかのように笑顔。
「母君と同じ過ちを犯してしまった君に、この花を捧げよう」
掌ほどある花は、握りつぶされる。潰された花は、手から地面に落下した。