「スザク」
ライアルは歩きながら、後ろを振り返った。少し遅れてついてくるフードの少年が、草原色に映る。
『スザク、あの氷のお兄ちゃん嫌い。そっくりだもん。だから。あのお兄ちゃんの前では喋らないよ』
「髪の色だな……それが分かれば」
ライアルは足元に咲いている小さな白い花を見た。
『確かに珍しい髪の色だったね』
「なぁ……スザク」
ライアルは、何時の間にか空いてしまった間を埋めるために立ち止まった。
「私は……もしあいつだったら……何を言えば良いだろうか」
次第に近づく賑やかな声。静まり返った空間に、場違いすぎるそれは、異様に響いて聞こえた。
ライアルは家に着くと、真っ先に二階へ駆け上がった。部屋の隅に置いてあるクローゼットから、大きなロッドを取り出す。透明の水晶を包み込むような金の装飾。銀の柄は太く、鈍く輝いている。ライアルは、銀の柄をしっかりと握る。すると、水晶は瞬く間に草原色へ変わった。
『ライちゃん、良かったね。捨てないでおいて』
ライアルは頷くと、黙って下に降りた。
ライアルは、家の前に立っているカシワに、その杖を差し出した。カシワは驚きながらも、それを手にとる。
「これを使えば、とりあえず魔力切れは起きないと思う。あまれ治癒術には向いていないが、我慢してくれ」
「力の杖を持っているとはね」
リィドがにやりと笑う。その視線の先をライアルは確認した。杖の水晶の下に刻まれた、魔方陣のような紋章。魔界政府を始めとする、領主制の国々と対立する西の地、遥かなる大地の紋章だ。
「力の杖って、聞いたことがある気がしないでもないわ」
「授業でやりましたよ」
真面目に言ったリリーに、ジェンは呆れ気味に説明を始める。
「使用者の魔法に魔力を付加します。よって、使用者はほとんど魔力を使わずに、魔法を使うことができます」
ただ、魔力の補給がいりますけどね、とジェンは付け加える。
「凄いものなんだな」
カシワは感心したように何度も頷いた。ライアルは、珍しいものなんだぞ、と悪戯っぽく笑う。
「ありがとう」
「礼を言うのは早い。今から実践魔法の特訓だからな」
カシワの笑顔に、ライアルはにやりと笑って返した。