肩を支えられ、木の根元に凭れかける。視界に入る金は、暖かな色だ。ライアルは、どこかで見たことがある気がしたが、思い出せない。
「お前は……」
仮面の男の声。突然現れた男の背の横から見える仮面の男は、先程の余裕は何処に、というほど焦っていることが、ライアルにも分かった。仮面の男の後ろに聳える木に、チャクラムが刺さっている。
突然現れた男の髪は、鮮やかな金色で、そこだけは仮面の男と似ていた。ただ、その髪は長く、背も仮面の男よりも高く、服装はローブだった。
「将軍殿、逃げるなら今のうちだ。俺に敵うはずがない」
空気が収束した。突然現れた男は、仮面の男が出した氷の槍を氷の壁で止め、接近戦へ持ち込もうとする仮面の男の足に、鎖鎌を投げつけた。間一髪で仮面の男はそれを避けるが、実力の差は歴然としていた。
「私が知らないぐらいだ。あなたは、なるべくその強さが表に出ないように行動していたはず。私にそれを知られても良かったのかな? それとも、そこまで新月の子が大切なのか」
「あぁ、新月の子を死なすわけにはいかない。大体、ライアルちゃんは氷魔法と相性が悪すぎる。その上、カイリ様までいらっしゃる。どう考えても、ライアルちゃんの方が不利だ。それにもういい。妖界王のところには、近々出向くつもりだ」
新月の子、とは自分のことだろう、とライアルは思った。心当たりがないわけではないが、この二人が知る由もないはずである。それと気になるのが突然現れた男。長い金髪と、やや低めの声に、ライアルは懐かしさを感じた。そして、自分を知り尽くしているかのようなこの男は、昔、会ったことがあるに違いない、とライアルは思った。
氷の砕ける音が響き渡る。瞬間的に、高威力の攻撃ができる氷魔法を、直接攻撃に織り交ぜた戦いは、目で追うのがやっとである。
仮面の男はナイフ使い。相手の男は暗器使いだ。接近戦の得意不得意はあるものの、素早い動きを要求する武器を選んだ二人。二人の金色の髪が、ライアルには一体化して見えた。
「冷たき優美な刃よ、我が敵を切り裂け、氷月花」
高度な氷魔法だ。ナイフのような輝きと、氷特有の煌きを併せ持った刃が旋回する。ライアルには、どちらが放った魔法なのか既に分からなくなっていた。
ライアルは、ぐらりぐらりと頭が揺れるのを感じていた。出血多量による貧血である。流石にあの傷は、ライアルにとっても深かったらしい。
「あなたは、私を殺す気はなかった。何故ですか?」
風に流れるようにして、ライアルの耳に仮面の男の言葉が入った。
「俺は、秘密結社『孤高の絆』の代表だ。将軍殿、すぐに迎えに行く」
かろうじて聞こえたその言葉。消えかかった意識の中で、ライアルは、聞き覚えのない『孤高の絆』という言葉を、必死に記憶しようとした。
振り返った男の顔が網膜に映し出されるのと同時に、ライアルは意識を手放した。