Unnatural Worlds
第二部 龍の炎
第一章 勇敢と優麗
後ろめたい帰還




 ライアルが目を覚ましたところは、ベッドの上だった。
「カイリとスザクは?」
 ライアルはいきなり起き上がり、肩の激痛に顔を歪める。
『スザク大丈夫だよ』
「私は無傷ですから、安静にして下さい。とりあえず、今から事情を説明させて頂きますので、これを飲んで落ち着いて下さい」
 にょろりとベッドの上に黒蛇が顔を出し、横からはマグカップが差し出される。
「長髪の男の人が、仮面の将軍を説得して、軍を撤退させてくれました。それから、雷殿を、ここ、青海診療所に運んで頂きました。名前は教えて頂けませんでしたが、明るく優しいお方でしたよ」
 カイリはくすりと笑った。ライアルは温かく甘い飲み物を少しずつ聞きながら、頭の中で状況の整理をした。将軍も長髪の男も、自分の知らないことを知っている。長髪の男は、確実に会ったことがあるはずだ。
「治療して頂いたらしいですね。感謝しています」
 とりあえず、ライアルは丁寧にお礼を言う。あのままだったら、確実に死んでいただろう、とライアルは思っていた。
「たいしたことはしていません。出血は止めましたが、傷が深かったので、治癒はできていません。どうか、ご無理はなさらないで下さい」
 カイリは微笑む。肩を見れば、包帯がしてある。ライアルはせなかに冷たい汗が流れるのを感じた。
「治療をして下さったのは?」
 慌ててライアルが尋ねれば、カイリは途端に笑顔になる。
「私だけです。ご安心を」
『ライちゃん、こんなこともあるよ』
 深く溜息を吐くライアルを、スザクとカイリは笑った。

 ライアル自身、魔力だけはいつものように有り余っていたため、強制瞬間移動で雷の国へと戻った。ライアル自身、ほとんど何もしていないものの、海の国の領主には感謝された。
 ライアルには後ろめたさはあった。カシワと顔を合わせるのは嫌だった。いっそのこと、別行動で妖界城を目指そうかと考えたが、スザクに止められた。
『ライちゃん、その体で妖界城までは行けないよ』
 ご尤もな意見だったので、ライアルは大人しく戻ることにした。肩は僅かでも動かせば激痛が走る。利き手ではないのだが、かなりの痛手だ。
 雷の国にある家の中に舞い戻り、目を開ければ全員がその場にいた。反応は様々である。
「ライアル、心配したんだからね」
 近寄ってくるリリーは、すぐに肩の包帯に気付く。
「どうしたの」
「今は大丈夫だ。ただ、動かしたら痛い」
 すっとアンが近づいて来た。不気味な笑みを浮かべながら、そっと肩の包帯に触れる。
「かろうじて傷口は閉じているみたいだけど、無理は禁物ね。かなり深かったんじゃないかしら」
 アンは無気味に笑いながら、一歩後ろに引いた。リリーは、全然大丈夫じゃない、と言って、治療させるように求めた。
「医療魔法では無理があるらしい」
 ライアルは慌ててそう返す。
「ライアル、貴方に痛手を負わせるのは、並大抵の魔物には不可能です。さらに言えば、統率者のない魔物軍には不可能です。カイリ様がいたとしても。海の国で何があったのですか?」
 椅子に座っているジェンが尋ねる。
「妖界の仮面の将軍、カース将軍にやられた。ただ、海の国は何とかなっている。安心しろ」
 アンが一瞬怪訝そうに目を細めた。リィドは黙ってライアルの方を見ていた。

BACK TOP NEXT