妖界に移動するのは、首都の魔法陣を使わなければいけない。早速ライアルたちは、雷の国の隣国、霧の国から出る首都への船に乗ることになった。いくらライアルでも、
強制瞬間移動で全員を連れて行くのは難しい。
ライアルたちは霧の国に通る大河、霜の河の船着場まで歩いた。道のりは歩いて二時間ほどだったのだが、ライアルには長く感じられた。
『ライちゃん、いい加減仲直りしようよ』
雷鳴り響く荒野の先頭を歩くライアルは、できる限りの早足で歩いていた。肩は痛むし、雰囲気も重い。後方を歩くカシワを気にしないようにするのは、至難の業だった。
突然、雷、と呼ぶ声がした。
「どうした、リィド」
ライアルがふと隣を見れば、そこには何時の間にかフードの少年がいる。全く気配がなかったな、などとライアルが思っていると、リィドは口を開いた。
「君、妖界軍の将軍に会ったって言ってたよね。一体、誰に助けてもらったんだ」
黒い片眼はひんやりとしている。ライアルは前を向き直した。
「金髪の男。身元は分からん」
「ナイフ使いじゃなかった?」
切り返しは異様に早かった。更に細くなる瞳をちらりと見てから、ライアルは言った。
「ナイフは将軍の方だ」
それと同時に隣を見れば、黒い片眼が一気に開いていた。突然立ち止まったリィドに、ライアルは驚く。
「おい、大丈夫か」
ライアルの声で、漸く我に返ったらしい。大丈夫、と言いながら、リィドは早足で歩き始めた。顔は異様に無表情で、ライアルはそれから何度も隣を見た。しかし、目が合
うことはなかった。
ライアルが速度を上げれば、リィドは遅れていった。暫く離れたところで、ライアルは漸く口を開いた。
「氷原の翼、将軍、秘密結社の代表……異様に氷使いが多くないか」
思い出すのは三人の男。三人とも、身元すら分からない状態だ。そのくせ、三人ともライアルのことを知っている様子だった。それも、公にはなっていないはずの事実まで
。
そして、リィドのあの反応から、リィドと将軍は何か深い繋がりがあることは確実だ。そして、将軍と結社の代表にも、確実に繋がりがある。将軍は知らないらしいが。
『自然系が六つ、不変の真理系が二つもあるのに、不思議だね』
スザクが明るく言った。ライアルは思わず口元を緩める。何度聞いても、その呑気な声は可愛らしいと思ってしまうのだ。
「氷の国には、あまり良い印象がない」
ライアルはさらりと言う。
『過激だもんね。スザクも氷は大嫌い』
えへ、と笑うスザクを、ライアルは服の上から撫ぜてやった。
「それは、やつの影響だろ」
『それもあるけど、スザク寒いところ嫌いだもん。ライちゃんも嫌いでしょ』
ああ嫌いだ、とライアルが言えば、スザクは嬉しそうに笑い、スザクと一緒だね、と言った。
前方には、活気溢れる、大きな船着場が見えてきていた。普段はあまり使われないのだが、治安の悪い魔界では、しばしば瞬間移動ができなくなるので、万一のために大き
な船着場が作られるのだ。
雷の国側ではない方向から来た人間が多いようである。ライアルは振り返って全員が付いてきていることを確認すると、小走りで乗船券を買いに走った。