Unnatural Worlds
第二部 龍の炎
第二章 夜霧の道中
動き出した現在




 綺麗な森だった。爽やかな風が吹き抜け、心地良い光が差し込んでいる。木々の狭間から聞こえてくる子どもの泣き声。ライアルは、すーと幽霊のように森の中を駆け抜ける。
 僅かに森が開けたところに佇む、小さな切り株に、二人の子どもがいた。緋色の髪の子どもと、白い髪の子どもだ。緋色の髪の子どもは泣いている。ライアルは、私だ、と思った。
「ライアル、泣くのをやめなよ。ライアルが泣く理由なんてないだろ」
 白い髪の子どもが、困ったように言う。それでも、緋色の髪の子どもは泣き止まない。
「フレが……死んだら嫌だ」
 しゃくりあげながら紡がれた言葉。ライアルは苦笑いする。白い髪の子どもも、ライアルと同じく苦笑いをした。
「じゃあ約束。僕は死なない。だから、ライアルも約束してよ」
 白い髪の子どもがそう言うと、緋色の髪の子どもは顔を上げた。
「うん、約束。私は、お母さんより強くなるんだから」
 緋色の髪の子どもがにっこりと笑えば、白い髪の子どもは、薄らと笑った。
 ライアルは黙ってその場を立ち去った。やり切れない気持ちがこみ上げてくる。ライアルは、その約束を守った。しかし、その約束の為に、多くの物を失った。
「皮肉なことだな……小さな子どもの純粋な気持ち……夢が……」
 見上げた空は限りなく青い。ライアルは自嘲する。
「アレには、一生付き纏われるんだろうな」
 ライアルには、あの約束を守ったことが、正しかったのか、間違っていたのか、未だに分からなかった。

 とりあえず、ライアルに毛布を被せ(寒さに弱いことは重々承知していた)、リィドは自分も毛布に包まる。頭は痛くて、全身がだるい。しかし、リィドは未だ冷たい毛布の中で、目も閉じずにただ白い壁を見ていた。
 事態は、リィドにとって良くない方向に動いていた。ライアルの言っていた将軍のこと、そして、ライアルのことなど、考えるべき問題が異様に多い。特に将軍のことは。考えるだけでも、リィドにとっては辛かった。
 扉が開く音。ジェンが帰って来たのだろう。リィドは上半身を起こす。
「起こしてしまいましたか。すみませんね。疲れているのなら、休んだ後でも良いですよ」
 ジェンは、ふんわりと微笑み、大きな紙袋を小机に置いた。構わない、と言って、重い体に鞭を打ってベッドから降りる。
 ライアルの寝ている、今しかできないことをするべきである。
「先生は、ランゴクの子ですよね」
 そう尋ねれば、ジェンは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに、そうですよ、と穏やかな笑顔を浮かべて言った。リィドは、ジェンの座る向かい側の椅子に座る。
「乱れ舞事件……先生の知っていることを教えて頂けますか?」
 そう尋ねれば、ジェンは一瞬眉を顰める。しかし、すぐにいつもの微笑浮かべ、良いですよ、と言った。

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