ライアルは機嫌が悪かった。目が覚めれば、皆が部屋にいて、更にリリーに怒鳴られ、挙句の果てに限りなく眠く、気持ちも悪い。
女三人が引き上げていった後、適当にパンを詰め込み、適当にシャワーを浴びて、再び毛布に潜る。すぐに眠りの中に入った。
何時間か経った後、ライアルは目を覚ました。辺りは真っ暗だ。夜なのだろう、とライアルは思った。
「起きましたか?」
小さな声のした方を見ると、ランプに火が灯されたベッドに、ジェンが座っていた。
「リィドは眠っていますから、静かにして下さいね」
ジェンは音もなく立ち上がり、ガサガサと袋を漁り出した。薄暗闇の中、手早くスープとパンを作るジェンを、ライアルはぼーっと見ていた。
ずっと起きていたのだろう、とライアルは思った。小さな椅子に座り、スープを飲む。静かだ。ジェンは微笑みながら、自分の温かい飲み物を飲んでいる。
「僕に近づくな」
小さな声だったが、それは苦痛に満ちていた。ジェンもライアルも眉を顰め、声のした方を見た。
「この…に…みが」
吐き捨てられた言葉は、あまりにも低くて、ライアルとジェンには聞き取れなかった。しかし、二人は持っていたマグカップを置き、立ち上がって、リィドの寝ているベッドの傍まで行った。
毛布の影から見える寝顔は、酷く無表情だった。二人で顔を見合わせていると、ふわりと風が吹いた。
「こんな時間に、どうしましたか……アン」
突然ライアルの隣に現れたアンに、ジェンは一瞬驚いたものの、呆れ顔で尋ねる。ライアルは突然現れたアンに、色々と言いたいことはあったが、言っても全く意味のないことを、重々承知していたため、何も言わなかった。
「夜這い……」
「ありえない嘘を吐かないで下さい。それで、何を見に来たんですか?」
不気味に笑いながらアンが答えたのを、ジェンはさらりと流した。ライアルは、居心地の悪い思いをしていた。このような冗談をジェンのようにさらりと流せるほど、ライアルは大人ではない。
「ふふっ、言葉当てクイズかしら? 四文字で、二文字目が「に」で四文字目が「み」ね」
薄らと笑いながらそう言うアンに、ライアルは苦笑いした。
「聞いてたのか……いつからここに?」
「ライアルが目を覚ました辺りからかしら。その点では、あなたの「見に来たんですか」という問いかけは正しいわね」
師匠に似てきたじゃない、とアンは笑った。最初からじゃないか、とライアルとジェンの二人は思った。因みに、ジェンの師匠は、ライアルの姉、キナであるので、ライアルは嫌なことを思い出した。
「言葉当てクイズとか言っているけど、アンは既に正解を知っている、または、確証がないだけ、ということだろう」
ライアルは言った。アンが全てを知っている可能性が、極めて高いとライアルは思っていた。少なくとも、ジェンと自分よりは、多くを知っているだろうことも確信していた。
「そうね……それより、ジェン……」
アンは、不敵に笑いながら、ジェンを見た。ジェンは目を細める。ライアルもじっとアンを見た。
「お茶を入れてくれるかしら?」
その一言に、ライアルとジェンが脱力したことは、言うまでもない。