「あんたねぇ、私は人殺しが嫌いよ。でも、仲間だから、巻き込み決定ね。最後まで付き合いなさいよ」
歩いてやってきたリィドに、リリーは指を差して堂々と言い放った。リィドは一瞬、僅かに驚いたような顔をした。しかし、いつもの余裕の微笑に変わる。
「五月蝿くて馬鹿な女がいなかったら、もう少し居心地が良いんだけど」
何ですって、と殴りかからん勢いのリリーに、自覚あったんだ、とリィドはさも驚いたかのように言っていた。
ライアルはおかしくなって声を上げて笑い出す。リリーとリィドは怪訝そうな顔をして、ライアルを見た。
「お前ら、実は気が合うんじゃないか」
にやりと笑ってライアルがそう言うと、リリーとリィドは、すぐに否定した。
「良かったですね。安心しましたよ」
ジェンは穏やかな笑みを浮かべ、少し離れたところでそれを見ていた。隣にいたカシワが、一体何が良かったのかを問う。
「ライアルとリィドは、本当に自分のことだけで必死になっていました。それが、人のことを考える余裕が出てきたんですよ」
「先生、ぼけーっとしているのに、意外と回り見えているんだな」
カシワが驚いたようにそう言うと、そこまで見えてませんよ、ジェンは謙遜した。意外と普通のやり取りだが、なぜかこのメンバーでは新鮮だった。アンは一人で声なく笑っている。
何時の間にか、三人は魔法球合戦になっており、本当の魔法合戦になる前にジェンが止めた。
しかし、そこからも、おとなしく、とは言えない状態で、一行は町外れにある魔方陣へ向かった。仮にも首都だ。魔法の町は巨大である。
ライアルは空を見た。青い。リリーたちは少し前の方にいる。だから、静かだった。
魔界治安維持精鋭部隊守手。それは、確かに魔界の影の部分だ。しかし、守手が、多くの優秀な戦士や魔法使いを生み出したのも事実だ。稀有な才能を持ちながら、親を失ったような子どもたちを、守手は育てている。守手の平均年齢は低い。
守手は希望なのだ。統一されていない魔界が、天界にも妖界にも勝てるものが存在するのは、守手があるからだろう。魔法の知識、魔法の技術は四界一だ、妖界軍の魔法使いの多くが、魔界の魔法使いであるぐらい、魔界の魔法使いの質は良い。
それに、両親を亡くした子どもが、一人で生きていくには、強い力が必要だ。それを、守手は与えてくれるのだ。
ただ、幼い頃から殺しをすることで、大きな弊害もある。
力の代償に、大切なものを失った者は多い。だから、ライアルは守手を肯定することも、否定することもできない。
「レン、お前は、私の親にはなってくれなかったんだな」
『ライちゃん……』
褐色肌の背の高い男。親を亡くしたライアルを育て、棒術と魔法、そして多くの知識を教えてくれた人。しかし、彼は真実を告げなかった。ライアルが、間違った道に進むのを、ただ見ているだけだった。
男が叱るのは、ライアルが危険な真似をしたときだけだった。男は、ライアルの身の安全しか考えていなかった。
「嫌なことを思い出したな」
『……』
何時の間にか、皆とは随分離れてしまっていた。ライアルは小走りをする。疲れていたので、全力疾走する気はしなかった。
魔界治安維持精鋭部隊守手。ライアルとは全く無関係の組織ではなかった。