Unnatural Worlds
第二部 龍の炎
第二章 夜霧の道中
琥珀色の伝説




「迷っただと?」
 ライアルは辺りを見渡した。知らない場所だ。魔法の町は広い。ライアルの頭に、町の地図が入っているはずがない。
 カシワとリリーは兎も角、リィドとジェンは魔界人だ。(アンは知っていても、面白そうだからと言う理由で放っておくので、考慮しないものとする) 何故迷ったのだろうか。
「方向的には合っていると思いますが」
 僕はこの町をあまり歩いたことがないので、とジェンは申し訳なさそうに言った。確かに方向は合っているはずだ。リィドの方を向けば、リィドは進行方向の右側を指差した。
「僕はこっちだと思ったけど」
 ライアル、ジェン、始めて来たリリー、カシワまでもが、違うだろう、と思った。海に向かって下り坂になっていることすら、忘れてしまったのだろうか。
「お前、まさか記憶力悪いのか?」
 馬鹿、という言葉をあえて避けて、ライアルは尋ねた。リィドは、気に入らない、といった表情だ。
「ライアル、記憶力の問題よりも……」
「方向音痴だな」
 リリーとカシワが、そう言うと、リィドはギロリと二人を睨んだ。しかし、リリーはすぐに、道を回りの人間に聞こうと思ったのか、すぐ近くで花に水をやっていた中年の女性に声をかけた。
 すると、女性は目を見開いた。
「クリスちゃん……」
「母さんのこと、知っているんですか?」
 リリーがすぐに聞き返した。
「娘さん? よく似ているわね。本当に生き写しだわ……」
 女性は、魔界をリリーの両親が旅をしていて、その途中に自分と出会ったことを話した。
「丁度あなたぐらいの年だったわ……」
 女性は良い仲間を持っているようで、とリリーの後ろにいる人を見た。その目が、ライアルにいったとき、女性の顔色が変わった。
「まさか、あなたは……」
「私の両親は、サクとフヨウと言います」
 ライアルは僅かに微笑みながらも、さらりと言った。ある程度展開が予想できていたのだ。ライアルは、自分の両親がリリーの両親と共に、魔界を旅していたのを知っていた。
「ライアルさん? ご両親を亡くしてからは大変だったでしょう。お子さんは二人とも立派になって、二人も喜んでいるでしょうね」
 それはないな、とライアルは思った。四楼になったキナはさておき、ライアルは雷の国の領主になったものの、力は弱い。それに、兄弟仲は地に堕ちている。
『もー、ライちゃん素直に喜びなよー』
 ライアルの気持ちを察して、もぞもぞ動くスザクを、リィドがいるぞ、と言ってライアルは宥める。その間に、カシワが女性に質問をしていた。
「それでも、一度会っただけでよく覚えてますね」
「本当に彼らは伝説だったのよ。強かったわ。本当に嵐のようだったの」
「嵐ですか……」
 その言葉に反応したのはジェンだった。ジェンは、学校ではいつも、嵐に遭っている気分であった。
「リリーちゃんとライアルさんがいるんだから、本当に楽しいでしょう」
 にっこりと女性は笑った。そこで苦笑いをした者と、同じく笑い返した者の二種類の者がいた。

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