Unnatural Worlds
第二部 龍の炎
第三章 旅の仲間
妖界の町




 翌朝、一行は意気揚々と、サファイアの家から最も近い町、ファンレールへと向かった。
 ファンレールには、漆黒の建物から、妙な穴のようなものまで、本当に多種多様な家々が並んでいた。池の中から、いきなり魔物のような住人が飛び出してきたときには、カシワだけではなく、ライアルまでもが驚いた。
 町も治安が良いとは言い難い。魔物か人間か分からないような者も多い中、一応全員人型の者で構成されている一行は、異様に目立っていた。
 ライアルは、リリーやカシワに、灰色のマントを羽織って貰えて良かった、と思った。リリーやカシワの、世界人の服装では目立ちすぎる。
 ライアルは、すぐに、人数分の船のチケットを手に入れた。魔界の紙幣は、妖界でも使える。妖界人の市場は、魔界にあるためである。魔界は、統一がされていないため、軍事力は低いが、商工業と魔法技術は発達している。妖界はその逆である。お互いが依存し合っているのだ、
 船の出発までには、かなり時間があったが、すぐに乗船することができた。港に停泊する漆黒の巨大な船は、魔界の船とは比べ物にならない大きさだ。その威圧感は凄まじかった。
 船の中は、美しいとは言えなかったが、上品だった。所々に施されている金属の彫刻は、上品な色を醸し出していた。しかし、絨毯に黒い染みが広がっているのも事実。その染みは、言うまでもなく、血である。
「何で、魔法で綺麗にしないんだろう」
 カシワとリリーは、一生懸命染みを避けて歩いていた。
「ふふっ、不快に思わないのよ」
 アンは相変わらず不気味な笑みを浮かべている。ただ、紅い髪と顔の半分はフードで覆い隠されていて見ることができない。
「血を流して戦った証だろう」
 ライアルはにやりと笑った。ライアルも、嫌であるが、不気味がったり、避けて歩くほど不快ではなかった。それはジェンも同じで、金属の装飾について、リィドとお喋りを興じている。多くの魔界人にとって、妖界人の感覚は、完全に理解することはできずとも、理解し難いわけではなかった。

 部屋割りは、ライアルが二人部屋を三つ獲得してきたので、二人ずつに別れることになった。リリーとカシワ、ジェンとフレア、そして、アンとライアルだ。アンとライアルが同室になったことに、誰も何も言わなかった。何も言うことがないのが、正直な感想であったのだ。
 しかし、今回の部屋は異質だった。
「すごいだろ、実は六人部屋だ」
 真ん中の部屋に入ったライアルは、壁を横に引く。すると、三つの部屋が繋がってしまったのだ。アンは、面白そうね、と笑ったが、別の部屋に入った残りの四人は、固まっていた。
 しかし、ライアルに何の悪気もないことを、全員が理解していた。
 ただ、リリーとカシワも、二人だけで話したいこともあっただろう。リィドとジェンも、静かに休養したいのが本音である。
「まぁ、食事などは便利ですからね」
 ジェンは穏やかに笑っていた。リリーとカシワも気を取り直す。ただ、リィドだけが、顔を顰めていた。
「先生、絶対五月蝿くなりますよね」
「我慢しましょう」
 船旅は、賑やかになることが確実だった。

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