イルーラ・バトル。それは、魔界と妖界で最も有名な、船上のゲームの一つである。このゲームでは、二つのチームが戦う。ゲームは三つあり、二つゲームを制したチームがイルーラ・バトルの勝者となる。勿論、殺しはなしだ。
「最初のゲームは、知の戦いと呼ばれる、頭脳戦のゲームだ」
表向きは、平常心に戻ったライアルが、そう説明をした。
「六人しかいないから、一人一回は出て貰うことになるな。となると、ジェンとカシワが知の戦いだな」
ジェンは、良くないですけど、良かったですね、とカシワに言った。カシワはどこが良いのかがまったく分かっていない様子である。
そんなカシワとは対照的に、リリーは身を乗り出して聞いていた。
「船上のゲームだ。当然、観客がいる。観客から出された謎……まぁ、大抵は暗号を解く。少なくとも、危険度は一番低い」
「暗号なら、アンが得意そうじゃないか」
カシワの言うことは間違っていなかった。しかし、ライアルは薄らと笑いながら言った。
「一人一回しか出れないんだ」
「ふふっ、私は、空の戦いね」
すかさずアンがそう言った。不気味な笑みを浮かべた、気高い妖界の姫の瞳は、異様に生き生きとしている。ライアルはにやりと笑う。
「勿論。空中戦ができるのは、アンだけだ」
空中戦もあるのか、と驚くカシワ。ライアルは、空を飛べる種族も少なくはない、と言った。魔界にも妖界にも、翼を持つ民族が住んでいる。言わば、彼らの見せ場なのだ。
「アンは、空中戦ができるのか?」
「ふふっ、ハーフゴーストだから、空中浮遊はできるわ」
顔色を変えたカシワに、すかさず、ライアルはゴーストの説明をした。世界人の言うゴーストと、四界で一般的なゴーストは違うのだ。アンの言うゴーストとは、様々な姿に変わり、四界を見守る非常に長命な種族のことである。
「そして、残り三人は、このゲームの名前の由来となった、イルーラ・バトルだな。人数無制限のメインイベントだ」
にやりとライアルが笑った。残り三人といえば、ライアル、リリー、リィドだ。偶然なのか、戦闘バランスも悪くないだろう。
「相手を殴れば良いのね」
任せなさい、と空気を読んでいるのか読んでいないのか、リリーは明るく言い放った。
「最初の知の戦いは兎も角、あとの二つは、どれだけ華やかに美しく戦えるかを競うものだ。つまり、パフォーマンスが必要なんだ。詳しい説明はその時にしよう」
そんなリリーに、ライアルは冷静に説明する。そして、まぁ、悪くない人事案だろう、とライアルはにやりと笑った。
カシワとジェンは納得いかなかったが、頷かずにはいられなかった。イルーラ・バトルには出たくないし、空の戦いなどもっての外なのだ。
リィドは、当然、とでも言うように薄らと笑っていた。ライアルと目が合ったとき、リィドの唇が動いた。
声にならなかった言葉をすぐに理解したライアルは、にやりと笑い返した。
船のデッキには、たくさんの人が集まっていた。勿論、人だけではない。アンは、もう顔を隠すこともせず、悠々と歩いていた。やはり、観衆の視線はアンに集まる。
メインデッキに辿り着くと、既に六人の男女が待っていた。皆、若いが大人である。真ん中には、やはりアーサーが立っている。
「趣味悪いのは、アーサーだけで良かったわね」
「本人に聞こえるぞ」
リリーとカシワは、ごそごそと話していた。周囲の人間も、確かにライアルたちよりも派手な装いだったが、アーサーの如く、魔法学校の常識から逸脱した色の合わせ方ではなかった。
アーサーが前に出てくる。ライアルは、周囲を見渡し、ジェンと軽く目を合わせてから前へ出る。
「始めよう」
ライアルはにやりと笑った。アーサーも、ぐにゃりと口元を歪ませ、不気味に笑った。
「楽しみですねー」
拍手と歓声が巻き起こる。周りを見れば、同じデッキだけではなく、一つ上にあるデッキにも人が集まっている。物凄い観客の数である。
ライアルは後ろに下がる。妖界には珍しく、空は快晴だった。