Unnatural Worlds
第二部 龍の炎
第三章 旅の仲間
船上のパーティー




 ライアルたちは、部屋に戻った。勝者には酒が振舞われることになっているが、ライアルたちは全員未成年なので、断ることにした。ジェンが、たとえライアルたちが成人だったとしても、断っただろうことは言うまでもない。魔法学校特別塔の生徒たちは、揃ってお祭り騒ぎが大好きなのだ。普段の行いを見ても、周囲の物品が安全である保障は全くない。
 とりあえず、皆、部屋の中に円になって座った。土足厳禁のカーペット式の部屋に、感謝しながら。そして、皆であるものを食べた。酷く空腹を感じていたのだ。
「本当に燃えたわね」
 パンケーキを勢い良く食べるリリーは、ライアルとアンに明るくそう言った。
「ふふっ、楽しかったわ」
 アンは相変わらずの不気味な笑みで言った。ライアルは、アンが面白かった、と言うことは多いが、楽しかった、と言うことは少ないので、少し驚きながらも、にやりと笑い返した。
「途中からアーサーに言われたこともどうでも良くなるぐらいな」
 ライアルは笑いながら、ブドウジュースを飲む。にょろりとやってきたスザクには、ジェンが切った林檎を分けてやる。
「お前ら本当に強いよな」
 カシワがにやっと笑った。
『当たり前だよね。ライちゃん頑張ってるもん』
「当たり前だ。強くないと生きていけないだろ」
 ライアルはスザクを撫ぜ、ブドウジュースを飲み干すと、言った。
 ふと、ライアルが部屋の端を見る。すると、壁のところでリィドが俯いて座っているのが目に入った。リィド、と声をかけても返事がない。ライアルは静かに近づく。表情は深く被ったフードの所為で見えないが、僅かに肩が揺れているのと、静かな寝息から、寝ていることは確実だ。
 意外とどこでも寝れるのか、とライアルは思ったが、すぐに頭の中で訂正を入れる。寝てしまうほど疲れていたのだろう。
「疲れさせてしまったようだな」
 思い出すのは仮面の将軍の一件。まだ一日しか経っていないのだ。あれから大掛かりな魔法を使って、疲れないはずがない。
「そういえば、こいつはあんたと同い歳だったわね。もうおねむかしら」
 パンケーキを頬張りながら、リリーは明るく笑っていた。近づく気はないようである。ライアルはジェンを呼び、毛布を持って来させた。
 ジェンと静かにリィドにかけてやる。すると、再びリリーが口を開いた。
「あんたさ、少し大人になったんじゃない?」
「リリーより子どもだったら困るだろ」
 ライアルは即答し、リリーの元へ戻った。そこで、パンケーキに手をつけると、頭に無言の拳が降ってくる。ライアルは痛い、と言いながら素直に頭を押えた。
「昔、しっかりしてるくせに、責任感とプライドがある所為で肝心なところで自己管理ができてない奴……」
 ライアルはそこまで言ってから、再び頭を押えた。頭が割れるように痛む。そして、ライアルは激痛の中、皆の動揺するような声の中、スザクの悲痛に満ちたような声が際立って不自然だと思った。次第に痛みも止み、ライアルは皆に大丈夫だ、と言って笑った。
「悪いな、少し頭が痛くなって……それとスザク、私に何かを隠しているだろう」
 ライアルはさらりとそう言って、スザクを見た。割と皆気にせずに食べていたが、ジェンだけがライアルとスザクを見ていた。
『そんなことないよ。スザクは正直だもん。スザク、ライちゃんに隠し事なんてしないよ』
 スザクは慌てふためいた声でそう言った。ライアルの勘はそこで確信となる。ただ、スザクを追及するのも、ライアルは嫌だった。スザクが正直なのは事実だ。追及している間に、スザクが罪悪感を感じることは確実である。ライアルは、そうか、とだけ言って、スザクの頭を撫でた。

 船のデッキ。イルーラバトルの騒ぎはどこにいったのか、静かなその場所に二人の男がいた。一人は緑色の山高帽に、ピンク色のマントの男。そして、もう一人は、流れるような長く鮮やかな金髪の男である。
「アーサー、新月の子はどうだったか?」
 金髪の男は、にやりと笑って、山高帽の男にそう尋ねた。
「元々魔法は苦手なんですよ」
 山高帽の男、アーサーは溜息混じりに言う。潮風が流れるように吹く。
「顔は父親似で、髪と目の色は母親譲りだろ」
 金髪の男は、俺が言ったとおりだろ、と続けた。するとアーサーは再び溜息を吐いた。
「どうしたらあの両親から、思考回路単純明快で、あんなに喧嘩っ早くて、明るい子どもが生まれるのでしょうかね」
 金髪の男は、言い過ぎだけど当たってる、と声を出して笑い始める。しかし、アーサーが睨んだため、金髪の男は笑うのをやめ、口を開いた。
「真面目に答えると、夜の君主がこの四界に蒔いた、最大の種だからじゃないかな」
 これを聞いたアーサーは、間髪入れずに尋ねる。
「つまり、あの子が、歴史を変える、とお思いで?」
 心地よい潮風が流れる。船が海を書き分ける音と共に。
「ああ、関与することは確実だ」
 金髪の男は笑った。

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