Unnatural Worlds
第二部 龍の炎
第四章 澄み渡る星空
誘い




 ライアルは、椅子に腰掛け、小机に肘を突いた。
「お前が何をやりだすか分からないからだ」
 ライアルは、再び、大きな溜息を吐いた。
「ライアルの単純思考で理解できるような行動を取る人も、少ないと思うよ」
 ライアルは、フレアが、さらりと避けるかのようにしていることが分かった。昔からしょうがない奴だったな、と思い、ライアルはゆっくりと息を吐く。根気強い説得が必要だ。
「あのな、終わったことについて色々言っている奴が、過去からも自分からも目を逸らしていたりするわけなんだが、言う奴はまだ良い。分かるからな。だが、お前は、言わずに突っ走るタイプだ」
 フレアは目を細め、片眼をライアルに向けた。
 精神的に強い人間にありがちなことである。フレアという人間の精神的強さが人間離れしていることは、ライアルも重々承知していた。勿論、強さによって押さえつけられたそれが、爆破の原因になることも分かっていた。
「自分のことを棚に上げて」
「私は全てが自分の所為だと思っている。私は、その道を態々選んできたわけだ。父と同じ家にいながら、のうのうと生き延びてしまったのも、私の責任だ。物心と無かったが、父を守る力はあったのだからな」
 ライアルは一息ついた。最初から、ライアル自身が、エルツァやジェンの両親の所為ではなく、自分の所為にしていたら、何も起こらなかったかもしれないのだ。
「お前もそう思え。兄を止められなかったこと自分を恨めば良い」
 相変わらず、不快そうに目を細めているフレアに、ライアルは続ける。
「次に生かすんだよ」
 そうじゃないと、何も変わらないだろ、とライアルは笑う。
「守手を続けながらでも、学校には行ける」
 守手はやめられないことは、ライアルにも分かっていた。フレアがやめたところで、守手がどうにかなるわけではない。それに、フレアには、氷原の翼として、魔界に行くことも必要だ。
 背に描かれた魔界の印には、そのような意味がある。
 しかし、ただ一人で背負い続けるのは、あまりにも酷い。
「夜は暗殺業の学生?」
「真昼間から領主の学生もいるんだ」
 ライアルは、すぐに言い返し、そして、フレアをしっかりと見た。
「もう一度言う。私に着いて来い」
 未だに不快感を隠せていないフレアに、ライアルは、笑みを浮かべながら続ける。
「元々、お前は小食だ。部屋は売るほどある。お前が増えても、器物損傷回数と、保健室の利用回数が変わるだけだろう」
 絶対穏便には過ごせないだろ、とライアルはにやりと笑う。
「僕は、既に魔法使いなんだけど」
「私やアンが、魔法使いの卵だと言いたいのか? アンが魔法使いの卵だったら、四界の魔法使いは泣くだろう」
  はっきり言って、魔界でライアルが新しく習う魔法など、ほとんど無い。幻魔法ぐらいである。アンは尚更だろう。別の目的があるのだ。
「魔法学校特別塔。それは、魔法使いを育てることを目的にはしていない」
 ライアルは、はっきりと言い切った。
「妖界の姫、天界議員の娘、魔界の領主を始めとする、四界を背負う若き者たちが、机を並べることに意義がある」
 四界は変わったのだ。一昔前では、考えられなかったことが起きている。
 フレアは、無表情になった。ライアルは、さらりと続ける。
「あと言っとくがな、ジェンはあんな顔しているが、厳しいぞ。私なんか、魔法実技を含めて、十段階評価で、一以外の評価を取ったことがない」
「それは、先生の問題ではない気がするけど」
 フレアが間髪入れずに言う。
「アンも一だったぞ」
「真面目に受けていないんじゃない?」
 そうだな、とライアルは笑った。すると、窓から風が流れてきた。
「一日中魔界にいても、やることないから、ジェンにお願いしようかな」
 フレアがにやりと笑った。ライアルも、にやりと笑う。
 そして、一息ついてから、ライアルは尋ねた。
「それで、何で目を隠しているんだ?」
 フレアが黙り込んだ。ライアルは、ゆっくりと息を吐く。最大にして、最終の手段は、実力行使だ。
 ライアルは素早くフレアに近づくと、フレアが抵抗する前に、止め具を外した。力で負けたとしても、ライアルは剣士であり、フレアは魔法使いだ。動きの素早さでは負けない。
「赤黒くなってるな。見えてるのか?」
 ライアルに向けられた不快そうな目には、氷のような青色と、毒々しい赤黒い色が混じっていた。片眼は黒なのに、片眼は奇妙な色をしている。
「見えてる」
 フレアはぶっきらぼうに答えた。
 ライアルは、このようになった理由を知っていたから、目に付いてはそれ以上を訊かなかった。しかし、気になることはある。
「腕は大丈夫なのか」
 フレアは、素直に腕を捲くった。白い腕には、毒々しい漆黒の模様が刻まれている。それは、肩近くまで続いていた。
「お前、全然大丈夫じゃないぞ」
 フレアは何も言わなかった。しかし、何を今更、というような表情を浮かべていた。ライアルはゆっくりと息を吐く。
「朝、迎えに行く。ゆっくり体を休めろよ」
 そう言って、ライアルは、フレアの部屋から立ち去った。そして、威圧感のあるシャンデリアの下を通って、ライアルは自分の部屋に向かった。

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