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次に通されたのは、鍛錬場だった。私はいつも、城の裏の草原を使っているので、入ったことはなかった。
顔見知りも多く、適当に挨拶をしながら汗臭い部屋の中に入る。
そこには、大きな布で汗を拭く、筋肉隆々の男がいた。手元には大きな斧。レイヤ・アセチルム第一部隊長だ。
「おお、ティーラ、どうした」
どこかの軍公の如く裏があるわけでもなさそうな、爽やかな笑顔。若くはないだろうが、中年と言うには少し若いかもしれない。
リスティー隊長が軽く事情を話し、私は自己紹介した。すると、アセチルム第一部隊長は笑顔で自己紹介をしてくれた。どこかの部隊長とは豪い違いだ、と私は素直に感じた。
「俺はレイヤ・アセチルム第一部隊長だ。同士はシナギ侵略時にほとんど死んでしまったからな。最年長になってしまったわ」
シナギ侵略時、シナギ人たちはボロボロになるまで戦ったのだ。その所為で、今、四十代から上の年代がごっそりと抜けている。特に、男性はほとんど生き残っていない。
しかし、アセチルム隊長は明るい。気が合いそうだ、と私は思った。酒場の噂通り良い人のようである。
「困った時は助けてやろう。遠慮なく相談すれば良い」
若いと悩みも多いだろう、とアセチルム隊長は豪快に笑った。
そして、私を見てにやりと笑った。
「まだまだだな」
私は眉を顰める。何がまだまだなのか。
しかし、アセチルム隊長は、私が尋ねる前に、再び口を開いた。
「お前は、まだまだいける」
そうだろ、というアセチルム隊長の笑み。
何だそう言うことか。私はにやとり口元を歪める。
「いきますよ。まだまだ」
どこまでも前に進む。前に進むのに邪魔になった共和国はぶっ飛ばしてやる。
分かってる。この人は私を分かっているのだろう。
まだまだという言葉。それは、まだまだ前に進む喜びが残っていると言うこと。まだまだ私は強くなれるということ。私にとっては何よりもの励ましの言葉である。
「楽しみにしてる」
豪快な笑い声と共に、部屋の中からかけられた言葉。
暑苦しいわ、と苦笑いするリスティー隊長に、私はあははと笑って答えた。
胸騒ぎがする。
突然ティーラが連れてきた女。軍公が認めたとか言うが、あいつがそう簡単に人を昇進させるはずは無い。その上、どこの誰かも分からないような奴を。
階段を登りきった俺は、乱暴に扉を開けて中に入る。
「軍公、どういうことだ」
扉を開けるなりそう尋ねると、椅子に腰掛けていた若い軍公は、表情の無い顔をこちらに向けた。
「エース・アラストルのことかな」
「そうだ。どうしてあんな女を……」
そう言いかけたとき、軍公が口を開いたため、俺は口を噤んだ。
「実力はそこそこ。まだまだ甘い」
「ならば何故……」
軍公は蔑んだような笑みを浮かべている。
あの女には、何か重要な物があるのか。勝利の鍵のようなものが。
「闘志」
軍公はぐにゃりと口元を歪めた。
「彼女はエフィス人だよ。喜んで危険に飛び込む、死んでも構わないエフィス人」
素晴らしいだろう、と軍公はさらに口元を歪ませる。
俺は思い出した。シナギの独立のためなら、身を粉にして働き、いくらでも冷酷になれる。そして、使えるものは何でも利用する。
それがシナギ解放軍の軍公、セーレ・アザトスなのだ。
「安心した」
嫌な胸騒ぎは、違った音を奏で始める。それは、憎きエフィス人がこの城にいるからだ。俺はそう思い、静かに部屋を後にした。
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