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俺の見た目はエフィス人そのものだが、帝国時代はフランダルと呼ばれる被差別民だった。フランダルである俺のことを快く思わない者は多かった。
フランダルの活動家がテンテンという名前だった。フランダルらしい響き有名な人物の名前は、俺の陰口に使われた。陰で自分がテンテンと呼ばれているのは知っていたが、表では言わないため無視し続けていた。しかし、不快だと思っていたのは言うまでもなかった。しかし、俺はずっと我慢していた。何も言わなかった。それが良くなかったらしい。
積もった不快感は徐々に大きくなり、次第に俺が制御できないまでに成長していた。
「何故、あなたはテンテンと呼ばれているのですか? テンテンって可愛い渾名ですね」
新入りの部下である少女。銀色の髪に褐色の肌をした少女は、エフィス兵の中でも一際目立っていた。国立大学の狭き門を潜り抜け、歴史学部を首席卒業で学士を取得、現在は大学院で研究を続けているという。一般兵に学士を持っている者などほとんどいない。エフィス人には見えない容貌とその学歴によって、彼女は注目の的だった。
彼女に関しての認識はその程度だった。しかしながら、彼女にそう尋ねられてからの記憶がない。直接尋ねられたことで腹が立ったのは覚えている。周囲の者の証言によると、物凄い勢いで彼女を追いかけ始めたらしい。それも、俺も彼女も抜刀したまま、全力疾走だったようだ。
俺から見事に逃げ切った彼女は、後日、俺の前に現れた。
「ごめんなさい、師団長閣下。知らなかったんです。教授に聞いて初めて知りました。すみません」
彼女はフランダルのテンテンという存在は知っていたが、俺がフランダルであることは知らなかったらしい。さらには、それが陰口であることも分からなかったらしい。
「だって、師団長閣下、軍人として何の落ち度もないじゃないですか。それに、歴史人物の名前が陰口に使われていたなんて……」
差別をしない夫婦の下で育った彼女は、フランダルの存在を知らなかったらしい。陰口を言わない性格のようで、それが陰口であることも全く分からなかったらしい。
それから彼女の動きを気にして見ていた。すると彼女の兵士生活には問題があることが分かった。夜歩きまわって遺跡巡りをしていたり、禁止されているはずのギャンブルを行ったり、それらのせいで体調を崩して留守番になったり、掃除と食事の当番をサボったりしていたのである。俺が気がついた時には、叱ろうと呼び出すのだが、易々とやってくるような人間ではなかった。そうは言っても、隠れることのできる場所など限られているのだから、すぐに発見される。そこからは持久力を使った追いかけっこだ。
その追いかけっこは彼女の退役で終わると思っていた。彼女は本格的に研究生活に入り、軍人として生きる自分と会うことはないだろう、と。
「改心する気は無いのか」
草原に銀色の髪を靡かせ、愛刀を握る彼女に尋ねる。
「何を改めるべきか、見当もつかないね」
追いかけっこはもう終わりだ、エース・アラストル。お前はいつも自由だな。しかし、これ以上は許せない。
「部下の不始末だ。上司が責任を持って片付けなければならない」
滅多に現れない銀色の髪。純粋な北方人の証であり、奇跡の結晶。陽光が当たればその色を失うといわれているが、彼女の髪は銀色のまま。砂でボロボロになったとしても、何故か髪の色は失われない。
砂や草に塗れても本質を失わない彼女の髪は、まるで風のようだと思った。
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写真素材(c)Neo Himeism
追いかけっこは終わらない