エース・アラストル上級兵
シナギ自治区アルカプタにて戦死


 私には一人娘がいて、名前はエースと言う。
 大きな病気もなく、いつも元気にしていた。初等教育の成績はいつも上位で、特に、彼女が好きだった歴史の成績は頗る良かった。
 そして、もう一つだけ、彼女が好きなものがあった。それは、刀だった。彼女は嬉々として刀を振るい、風を斬っていた。


 親が娘に何かを望むのは、自然なことだと思う。
 エースは、私たちが大切に思っていることを理解していたし、「国のために死んでくる」と言って、刀を握ったわけではなかった。国から徴兵されたわけでもなかった。彼女には、歴史探求と、強い剣士になるという夢があり、そのために、エフィス軍に入った。彼女は自分のために入った。


 だからこそ、止められなかった。成功が幸せじゃないことを分かっていた。あの子は成功を収めたいんじゃない。形にならない夢を只管追っている。その背中を止める言葉はない。


 私と夫はしがない商人で、あの子はそんな商人の娘。私があの子に望んだことはこんなことじゃない。
「最後の戦いでは、お一人で数十人もの敵を斬りました。その功績を讃えて、国から……」
 途中から話なんて聞いてはいなかった。私が望んだことはこんなことじゃない。国から讃えられることじゃない。
 あの子を返して。
 そんな言葉も不適当だった。何せ、彼女は奪われたわけではない。行ってしまっただけだからだ。だから、どうしうよもない喪失感だけが胸中を支配した。


「嫌な夢でした」
 静かな居間で、限りなく赤い夕焼け空を見上げる。
「そうですか」
 夫は、それ以上は何も言わず、窓の外を見やった。
 窓の外の庭には、死人花と呼ばれる花が咲いていた。




 女は知らなかった。その僅か一週間後、エース・アラストルが、シナギ第二の都市、アルカプタに赴くことになることを。そして、このアルカプタでの戦いは、激戦と呼ばれるような戦いになるということを。

 

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