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友人が弟子でできたって嬉しそうに言ってきた。自分を養う経済力さえもないくせに、と言うと、何の恥じらいもなく、飢えて行き倒れていたところを助けて貰った、と答えた。その上、その弟子は六歳の少女であるという。六歳の女の子に食べ物を恵んで貰った友の情けなさに呆れながらも、俺はその弟子に興味を持った。
しかし、その弟子は来るや否や、さっさと森の中に入ってしまった。顔を確認する暇もなかった。確認できたのは、砂漠の向こうの北方民族に低確率で表われる銀色の髪だけである。
「ありゃりゃ……誰に泣かされそうになったのか。悪いなぁ、紹介するって言ったのに」
泣いていたのか、気付かなかった、と思いながら、呆れたように笑っている友を見る。
「別に構わないが、どうして森の中に?」
少女は全速力で森の中に駆け込んだ。森の中に何があるのだろうか。
「絶対に他人に泣き顔を見せないんだよ。どんなに辛くても、その場では絶対に泣かないんだ」
困った奴だろう、とでも言うように友人は笑う。
「泣かないように躾けられているのか。それはまた可哀想なことだな」
泣くと迷惑がかかるから、と言われながら育てられた子どもは、それを不幸に感じることがある。子どもは泣くものだ。流石に、シナギにいるあの少年は泣き過ぎだと思うが、泣きたいなら泣かせてやらなくてはいけない。
「いや、多分親は関係ない」
どうしてそう言い切れるんだ、しかも気まずそうに目も逸らして……俺はそう思ったが、それなりの理由があるんだろうと思って、そのこそには触れず、別のことを尋ねた。
「行かなくて良いのか?」
「泣きそうな弟子の頭を撫でてみろ。泣くだろうが。それはあいつが最も望んでいないことだ。あいつは強い。自分で片付けられるさ」
友人は何がおかしいのか笑っていた。そして、少女が駆け込んだ森に黒い双眸を向ける。
「それは良いとして、何故弟子にしたんだ。六歳なんて他の子どもと遊んでいるべきだろう」
弟子にするということは、昼間の間ずっと友人が指導をしているということだ。遊ぶ時間などないはずだ。
「こいつ友達いないんだよ」
友人は困ったように笑った。
「そんなに気が弱いのか?」
俺は、気が弱くて一向に友達の出来ない少年を知っていた。丁度同じぐらいの年のはずだな、と思いながら尋ねる。
「いや、あまりにも変過ぎて友達ができない。好奇心は旺盛なんだがな。ああ、親がすごく普通の人だから、その反動なんだろうな、って思うぐらい変な子。性格とか全然悪くないし、頭も悪くないんだが、兎に角変」
変人という言葉を具現化したような男に、変だと連発されるというのは、一体どれだけ変な子どもなのだろうか。
「才能があるわけじゃない。頭が良い方でもない。だが、良い奴だ、本当に」
友人は明るく笑った。
あの時は、このニ年後に国がなくなって、そのまたニ年後に友が死ぬとは思ってもいなかった。
友が死んだという報を聞いて、エフィス共和国の町、レティアに向かった。友の墓があるという郊外の墓場に向かう。その中に、人が集まっている墓が一つあるのを見つけた。遠めだったが立派な墓で、ああ、幸せ者じゃないかと思うと口元が歪む。
食い物にも困っていたお前が、こんな立派な墓を立てて貰ったなんてことをお前が知ったら、そのお金を使って生きている間に食い物くれって言うだろうな、と思いながら墓に近付こうとしたその時だった。
小さな少女が、花を持って墓の前まで走ってきた。珍しい銀色の髪で、友の弟子であることがすぐに分かった。ふわりと微笑みながら、少女は墓に近付いて行く。
「二度と近付かないで」
しかし、それを見つけるや否や、墓の近くにいた女性が金切り声をあげた。そして、ふわりと微笑む少女が退かないことが分かると、女性は彼女に向かって石を投げたのだ。
驚いて、女性を止めようとした。しかし、墓に向かって走る前に足は止まってしまった。
「泣きそうな弟子の頭を撫でてみろ。泣くだろうが。それはあいつが最も望んでいないことだ。あいつは強い。自分で片付けられるさ」
俺は踏み留まった。少し離れた所に立ったまま、一人で戦う少女を見る。
堪えていないわけではないようだった。涙を我慢している。我慢して笑っている。でも、それは決して作り笑いでは無かった。作り笑いでは無いのに関わらず、無理して笑っているように見えた。
持っている花は白かった。こいつだけは白色が好きだったって知っていたんだな、と墓の周囲を飾る色鮮やかな花を見ながら思う。
綺麗だったとも。たとえ、色鮮やかで美しい花の中に会ったとしても、それがどこにでも咲いているハルジオンだったとしても。きっと、あいつはどの花よりもお前の花を愛でるだろう。
セーレ、強くなったな、泣かなくなったな。エース、お前は相変わらずだが、友達ができてきたじゃないか。
お前の目も、俺の目も節穴じゃなかったってことだな、ランド。
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写真素材(c)NOION
俺たちは幸せ者だな