The Night Monarch
Black Responsibility
フヨウはゆったりと歩いていた。
サクは無駄に騒ぎ立てることも無く、ただ冷静であったことに、フヨウは心から感謝していた。話は早く進んだ。お互いするべきことを分担し、別れたのは、つい先ほどの話である。
未だに空は濁っている。しかし、今は成すべきことをしなくてはいけない。フヨウは未だに燻る闇の香りの中、どこへ向かうということも無く、ただ一定の空間の中をふらりふらりと辺りを歩き回っていた。
一面の漆黒。色がどんなに黒くても、空は濁っている。否、黒くするために濁ったのだ。フヨウは立ち止まって空を見た。すると、すぐにふわりと風が動いた。
「エフィア殿、初めまして。私はフヨウ。しがない旅の剣士であり、領主ヨウ殿の御子息、サク殿の旅の仲間でもある」
フヨウは、すぐ近くの大木の陰から静かに現れた男に言った。男の顔はサクによく似た面持ちだ。口元は静かに結ばれ、青い瞳は酷く澄んでいた。
「カナンから話は聞いている。サクはどこだ」
声は低かった。深みのある声だ。優しいような冷たいような、そんな声だった。フヨウは薄らと笑う。これは面白いかもしれない、とフヨウは思った。
闇の香り。それは、サクがここを去る時にかけた、大掛かりな闇の魔法の名残だ。それは一瞬の魔法だった。しかし、それは妖界、エフィアを誘き寄せるのには、十分なものだった。
フヨウは勿論、魔法を使うのに賛成しかねたが、他に策も無い。サクの案に同意するしかなかった。しかし、悪いことばかりではない、とフヨウは思った。フヨウには、このエフィアという男が、天界とは全く違う何かを持っているように思えた。
「濁った空だと思わないのかね」
エフィアは不快そうに眉を顰める。
「こんな世界を作ろうとも、人間は貴殿の望み通りには動かないだろう」
フヨウが穏やかにそう言うと、青の深みは増す。
サクとエフィアは違う。だが、フヨウには二人が似ているように思えた。強い男だ。眼光は鋭い。だが、それは棘々しいものではなく、ただ、冷たく、静かに、力強く前を見据えるようなものだ。
「他人は誰にも動かせない。動かすために何かができたとしても、一歩を踏み出すのは、本人だ。それは素晴らしくもあり、もどかしくもある」
エフィアは、何かに気付いたような様子は見せなかった。しかし、拒絶するような様子も見せなかった。頷くこともなく、唇を動かすこともしない。ただ穏やかでありながらも、強く鋭い眼光だけは変わらない。フヨウはそれを窺いながら、再び口を開く。
「朝が来て、昼になり、夜が来る。貴殿らは不変の真理を、可変にしてしまったね」
フヨウは緩やかに語り、空を仰いだ。漆黒の空は、地に落ちていくかのごとく消えていく。しかし、顕になるのはまた漆黒、しかし、それは高く透明感のある黒だった。魔法が切れかかっている。
「でも、まだ力は残っているのだよ。この大地にも。魔法が生まれるよりも前に、既に存在していたのだよ」
澄み渡る夜空が、空を覆う。否、濁った空が消えていく。フヨウは微笑む。酷く不自然な世界の崩壊。それは、フヨウが望んだことである。
「夜を呼んだのか」
不動だった鋭い眼光が揺らいだ。エフィアは低く短く、そう呟いた。フヨウは笑みを消した。
「夜を呼ぶ。貴殿は大いなる勘違いをしている。夜は呼んで来るものではないよ。私たちが夜に近づいた」
エフィアは理解したようだった。謝ることはない。鋭く、静かに強いその眼光をフヨウに向け、毅然とした態度で尋ねる。
「精霊水か」
その言葉に、苦々しいという気持ちは欠片もなかった。
精霊水は精霊だけが作ることのできる水である。少量でも精霊を呼び寄せることのできる貴重な物だ。市場に出回るような代物ではないが、伝説の水とまではいかない。
澄み渡る夜空の下で、フヨウは穏やかな笑みを浮かべた。
「貴殿らは精霊を捕らえ、この水に抵抗する魔法を作ろうとしていたね。だけど、今は違うのだよ。魔法の方が切れかかっている」
エフィアは動揺の色を見せた。何も喋らない。ただ、先程の鋭い眼光は彷徨うような光に変わっている。穏やかで強い本質は変わらない。それでも、彼が戸惑っていることは明らかだった。
世界を曲げるには、大きな魔法をかけ、さらにそれを維持し続ける多大な労力が必要である。しかし、それは少し刺激を加えればすぐに崩れ去ってしまう。一人二人の力では不可能だ。サクと戦っていたことからして、エフィアは関わっていないだろう。操っているのは、おそらく城に篭っているカナン。そして、後の二人が、魔法の土台を作っている。サクとフヨウの推測は正しかった。そして、サクも上手く事を運んだ。
エフィアと反対に、フヨウは口元を吊り上げる。
「感謝したまえ。この魔界には、精霊がいる。だから朝が来て、夜が来る。時は過ぎ、水は流れる。それが何とか保たれている」
フヨウは再び空を仰いだ。木々のざわめき、風の音、澄み渡る夜空。全てが自然で、美しい。
精霊が戻れば、全てが完全に戻る。何もしなくても、完全に元に戻してくれる存在など、世の中に多くあるわけではない。歪めてしまった物を、元に戻すのは難しい。
フヨウは続ける。
「もし、魔界に朝が来なくなったら、夜が来なくなったら、一体どうするつもりかね」
エフィアの動揺に追い打ちをかけるかの如く、フヨウは尋ねる。エフィアは相変わらず無表情だ。しかし、動揺を隠せてはいない。
フヨウは、答えを期待しているわけではなかった。すぐにフヨウは続ける。
「魔法の力を使わないと、魔界は滅びてしまうことになるだろう」
エフィアは目を伏せた。フヨウはそんなエフィアを真っ直ぐ見ていた。エフィアはサクと似ている。ただ、揺れることが少ない分、一回揺れてしまった時の立ち直りは、上手くはないようだ。
「魔法はね、使わなくてはいけない状態になってはいけないのだよ。絶対にね」
フヨウはさらりとそう言ってから、ゆっくりと息を吐いた。
「ところで、貴殿の冠する御名は、何と言うのかね」
エフィアはフヨウを見た。不審に思っているのだろうか。フヨウは微笑む。
「ナイトエレジー。エフィア・ナイトエレジーだ」
エフィアはそう言った。未だに不審の色は消えない。フヨウは、ほう、と僅かに驚きの声を上げた。紡がれた名は、フヨウが思いもしなかった名だった。しかし、それは十分納得できる、彼に相応しい名であった。
「夜の哀歌。古の魔王の名を冠するとはね」
エフィアは、フヨウがその名を知っていることに驚いたのだろう。細い目が僅かに大きくなっていた。
ナイトエレジー。古代語だ。有名な名ではない。しかし、その名を知る人は知っている。古に生き、時の王に殺された魔王が冠した名。確かに世界分断辺りの話だったかもしれない、とフヨウは思った。
「美しいが哀しい御名だね」
静かに目を伏せるエフィアを見て、フヨウは目を細め、穏やかに笑った。
名が残るということは、話になる存在だったということだ。魔王と魔王を愛し、愛された女の悲恋。妖界となっているということは、彼自身がその魔王というわけではないが、ナイトエレジーと言う名には、そんな物語がある。
木々の合間から見える透明な夜空。フヨウは再び口を開く。
「私の知る、魔王の名を冠する者の話は、一つ二つではない。しかし、真に魔王の名に勝った者は、一人しか知らない」
おそらくエフィアも、魔王と呼ばれただろう。それは、先程のエフィアの様子からフヨウには容易に推測できていた。
魔王と呼ばれるような者は、生まれつき強い力を持っていた者ばかりだ。生まれつきの才能だけではなく、それ以上の力を望み、自分を高め、魔王という呼び名を鼻で笑うことができるようになったのは、妖界城の玉座に座る男だけだ。
「力は与えられるべき物ではない。人は創られるべきものではない。それは、貴殿も知っているはずだろう」
エフィア・ナイトエレジーは魔王の血を引いている。魔王の血を引いていて、生まれつきの力が弱いはずがない。そういう者が、人としての尊厳を考えなかったはずがない。
「最後まで反対した」
エフィアは重い唇を無理矢理持ち上げるようにして、そう言った。
「止められなかったのは、俺の責任だ。あんな物を……」
エフィアは目を伏せた。しかし、フヨウは、エフィアが言い終わる前に口を挟んだ。
「それは言ってはいけない言葉だよ。彼らはモノではないんだ」
フヨウははっきりと言った。決して声は荒らげない。穏やかな声だ。しかし、柔らかくはなかった。
行動を後悔し、蔑むことは悪いことではない、とフヨウは考えていた。しかし、彼らを蔑むことは許されない。彼らは人なのだ。一括りにされ、存在を否定されるなんてことは、あってはならない。
エフィアの考えは柔軟だった。否、元々、彼は薄々それに気付いていたのだろう。
カナン、エフィア、スフィア、ランシア。四人が同じことを見て、同じことを感じているはずがない。彼らは人間だったのだ。フヨウは四人の過去を詳しく知っているわけではない。知っていることは僅かだ。しかし、フヨウが知っている限りでも、この四人は四界誕生時の立場が全然違うのだ。
エフィアは目を伏せている。それでもあの静かな強さは感じられる。しかし、彼が自分を責め続けている。エフィアを精神的に攻撃し、再起不能にするのがフヨウの目的ではない。フヨウは慌てて口を開く。
「貴殿は今、自分が絶対的に正しいとは思っていないね」
フヨウは穏やかに笑った。
「進歩ではないか」
エフィアは目を瞑った。口元には微笑が浮かんでいる。それは、安堵の笑みではない。それがフヨウには嬉しかった。
良かった。フヨウがそう思った時、爆音が響いた。漂う闇の香り。伝わる濁った力。サクの魔法だ。間髪入れず、再び魔法が轟き、激しく炸裂する。フヨウだけでなく、エフィアも不審そうに目を細め、爆音のする方を向いた。
「サク殿と、スフィア殿とランシア嬢かな」
次々と起こる魔法。二人ではない。魔法使いが三人はいる。爆音は近づいてくる。
「そろそろ行くべきだろう。Farewell, Night Monarch.」
エフィアは僅かに笑みを浮かべた。知る人ぞ知る古代語。もう、エフィアに戦う意志はない。
「先手を取られるとは久しぶりだ。Farewell.貴殿とお会いできて、欣快の至りだよ」
フヨウはそれだけ言うと、走り出した。向かう先は勿論、魔法の発生源だ。木々の合間を駆け抜けて、倒木を飛び越える。近い。フヨウは巨木の脇で、いきなり止まった。
すぐ横から、声が聞こえる。それは聞き覚えのある明るい声だった。フヨウは口元を緩める。決して良い状況だとは言えないが、悪い状況でもない。
木の陰から、声の主が姿を現す。
「フヨウ、心配していたのよ」
クリス、ジェイク、サクの三人だ。フヨウを見つけてから、三人は程度こそ違うものの、顔を明るくした。フヨウはやって来た三人と共に走り出す。
どうしたのかと尋ねる二人に、後で話すとだけ言うと、黙っていたサクが口を開いた。
「ランシアが大掛かりな魔法をかけた。おそらく、意識を奪う系統」
サクは先頭に立ち走っている。フヨウは空を仰ぐ。世界を歪める魔法は解けた。しかし、同時に酷く面倒なことも起きたのだ。未だに発動しない大掛かりな魔法。それからなんとしても逃げなければいけない。
「そうか。それにしても良かったね、サク殿。しっかり合流できていたみたいじゃないか。エルフの方々を支配する魔法と常備軍も、崩壊させたのかな」
フヨウは穏やかに笑いながら尋ねる。クリスとジェイクと合流する、これが一番大きな不安要素だった。
「要となる魔法は破壊したよ。掛け直せないように小細工もしておいた。あんたもエフィアを止めてくれたみたいだね」
サクの言葉に、フヨウは頷く。迷い無く森の中を駆け抜けるサクは、ただ前を見ていた。
「戦意喪失はさせたよ」
フヨウが口元を吊り上げると、サクも口元に笑みを浮かべた。
「僕はあいつとは相性が悪いけど、あんたは得意なやつだと思ってね」
「素晴らしい洞察力に感嘆するよ。彼は人の話を遮ることなく真剣に聞く、律儀な性格をしているね」
フヨウとサクが、ゆったりと会話をしていると、見かねたジェイクが息を切らしながら、口を挟んだ。
「何故お前らはそんなに暢気なんだ」
それにはフヨウもサクも、くすりと声を出して笑った。ジェイクが話の内容を理解しているとは思えない。ただ、最もなご意見だとフヨウは思った。
「でも、仲良くなったわね」
クリスのその言葉に、サクが不快そうに僅かに表情を歪めたのを、フヨウはしっかりと確認した。
「私は最初から友好的だったよ」
フヨウがそう言うと、そうかしら、とクリスは首を傾げた。
そんな中、前方に白い影が入った。サクの表情が強張った。白いマントの女はこちらを見た。鮮やかな青の瞳が向けられる。手にはレイピア。ランシア。世界である。
「貴殿らだけで逃げたまえ。私はどうにでもなる」
フヨウは言った。フヨウは、この中で一番足が早い自信はあったし、何より相手は剣士だ。逃げられない、そう分かっているのなら、フヨウが相手になるのが真っ当な方法だ。
サクは全てを理解したらしく、頷いた。クリスとジェイクは納得していないようだった。フヨウは二人を諌めるように言う。
「空を見るべきだよ。空気は収束している。空は歪んでいる。しかし、夜が来ているだろう」
サクが頷いたのを確認してから、フヨウは一人一番に駆け出し、ランシアに近づく。
「ランシア嬢、私が相手をしよう」
金属音が鳴り響いた。ランシアのレイピアと、フヨウのレイピアがぶつかり合ったのだ。フヨウはククリも取り出す。
「フヨウさん、あなたは一体何を望んでいるのですか」
フヨウは剣を流し、間合いを取ってランシアと向き合う。
強い、とフヨウは思った。ランシアは女性だ。力が強いわけではない。ただ、素早さや技量は、フヨウがこれまで戦ってきた者立ちの中で、群を抜いている。
「望むことは、不自然なこの四界が壊れることかな」
フヨウはそう言って、ランシアを見た。エフィアと同じ、静かな強さを持つ青。エフィアとランシアは似ている、とフヨウは思った。しかし、何かが違うのだ。エフィアが持っている心の余裕は、ランシアにはなさそうだった。しかし、余裕が無いからこそ存在する、非常に強い意志と強い自我。揺らがない強い精神力は、見ているだけで分かる。
ランシアのレイピアが動いた。フヨウはククリでそれを止め、もう片方の手でレイピアを動かす。しかし、その瞬間ククリは流され、レイピアとレイピアがぶつかる。驚異的な早さである。
「強いね」
フヨウは再び間合いを取り、そう言った。ランシアは強い。両手が使える分、有利であるのに関わらず、力は粗互角だ。フヨウに残された時間は少ない。その間に、ランシアに勝ち、この国から脱出しなければいけない。
「この剣一つで大切な者たちを守らなくてはいけなかった。当たり前です」
凛とした声だった。しかし、その言葉に、フヨウは、ほう、と声を上げる。
「何故、貴殿は魔法を使わなかったのかな」
ランシアは魔法が使えるはずだ。世界分断で最も力を発揮したのは、世界となったランシアである。相当な力の持ち主だっただろう。
「魔法で世界は壊れる。それを貴殿は知っていたのではないかな」
フヨウはそう尋ねたが、ランシアは顔色一つ変えず、それどころか迷いの色も見せなかった。
「世界分断。それは、魔力を分散させ、世界を安定化させるためのものでした。その結果、この魔法の力が、恩恵に変わることができたのです」
ランシアは、はっきりと言った。そして、白いマントをはためかせ、再びレイピアを動かす。
「では、あなたは、何故魔法を憎むのですか」
フヨウは、ランシアのレイピアをククリを使って流しつつ、自らのレイピアを動かす。しかし、流すだけでもかなりの集中力を要する。レイピアはレイピアに素早く止められる。
「初めは望まぬ力に戸惑っていたからだと言えるだろう。だが、今は違うよ」
再び間合いを取り、フヨウは言った。僅かに息が上がっている。間合いを取り、休息を取らなければ、彼女の剣にはついていけない。フヨウは続けた。
「この、あまりにも不自然な世界が、見えるようになったんだ」
再びレイピアが動いた。
「あなたは、誰のために戦っているのですか」
ぐらりと何かが揺れた。フヨウはレイピアをククリで受け止めながら、その強い光を見た。
「私は、命をお助けして頂いた、ハリア様を御守りず、それどころか逃がされてしまいました。ですから、その御子息である、エフィア様とスフィア様を御守りすることに、徹していました」
ククリが流され、レイピアも流され、次々と襲い掛かっていく銀。強い光に惑わさせているかのようだった。フヨウはそれを阻むだけで精一杯だ。
「今は、私たちが世界を良くしていく。そう誓ったのです。世界分断の際、亡くなった多くの人々。その人々に恥じぬよう、私たちは今まで個人に傾けていた比重を、世界へと変えたのです」
フヨウは、ランシアの剣の動きが更に速くなっているように感じた。見える物は銀と、その強い光だけだ。
「あなたは何のために戦うのですか。哀れみですか、憎しみですか」
ランシアの声は頭に響く。木々のざわめきも風の音も聞こえない。ただ、凛とした声だけが、轟く雷のような力を持っていた。
「誰かを命を懸けて守りたいと思ったことがあるのですか」
銀が走った。追いつかない、とフヨウは感じた。ひやりとした冷たい汗が背中を流れる。直後、激痛が体中を駆け巡った。
肩が熱い。流れ出る液体は生暖かい。噴出す鉄の香りに、フヨウは顔を歪める。それでもなお、剣を握ったまま見上げる。冷たく強い眼光は、フヨウに向けられている。銀は紅の滴を生み出し、土は緋色に染まっている。視界は夜の暗さではない暗さを持っている。しかし、それらはあまりにも鮮やかで、強かったのだ。
フヨウは息を吐いた。逃げられないわけではない。力を使えばそれは可能だ。しかし、使いたくない。力を使ってまでして、やりたいことがあるわけでもない。
涼しげな水の音がした。
「お前、何やってるんだ」
ぐいっと怪我をしていない方の手を引っ張られる。フヨウはそのまま立ち上がり、引っ張られるがままに走り出した。肩の激痛は、変わらない。しかし、走る力はある。
「ジェイク殿、助かったよ」
周囲には他の者もいるらしい。賑やかとは言い難いが、数人の人間に話し掛けられていることはフヨウにも分かった。貧血で視界は酷く暗いため、姿は見えないのだが。
「サクも戦っているが、向こうはクリスが行った」
フヨウはジェイクに引き摺られるようにして走っていた。足元が見えないのだ。しかし、凸凹の少ないところをジェイクが選んでいるのだろう。躓きそうになることはなかった。
「それはどうやって決めたのかね」
フヨウは疑問に思った。クリスがフヨウを、ジェイクがサクを助けに来る方が自然である。
「クリスが、サクの所へ行く、って言ったんだ」
ジェイクはそう答えた。
クリスは何を思ったのか。不自然の皮を被った自然を感じたフヨウは、静かに微笑んだ。
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