Dark
Rainbow
闇色の虹
穴プラスアルファ
「ふふふ……今頃サファイアとパークスは大変なことになってるところかしら。うらやましいわ……」
三・四階を隅々まで探し終わった時、アンはなんだかわからないことを呟いた。
「アン、急にどうしたの?」
「なんでもないわよ……ふふっ」
絶対何かある。私はそう感じたけど言ってくれそうもないから聞くのは止めておこうと思った。(もし聞いたとしても『ルピア、しつこく聞くのは良くないわよ』とか笑みを浮かべながら言ってきて話をそらしそうだし・・・・・)
「あら、意外と聞き分けがいいわね」
「アンお願いだから人の心の中のぞくのだけはやめてね」
「いいじゃない、楽しいんだから」
アンと長いこと一緒にいるせいで精神力が少しずつ無くなってきてるよ。これじゃあこの状況を楽しむ暇がないなぁ。残念。
「次はあの塔の中ね。ふふふ……やっと楽しそうなところに来たわね」
「えっ、どういう意味?」
「さて、行きましょうか」
完全無視されたけど、まぁいいや。
「それで、どうやって行くの?」
私はさっきから気になっていたことを聞くことにした。
ついでに今行こうとしている塔は、私たちがいる巨大な塔から約百メートル離れたところにある上に、地上から約一キロメートル上に浮かんでいる。
「ふふふ、そうね。今のところ魔法は使えないから、あの例の穴を通っていくのがいいわね」
「えっ、魔法使えないの!? っていうかその前に例の穴って何?」
「あら可哀想に……魔法が使えないことも気づかなかったの? それにここに住んでいたんだから例の穴のことも知ってたと思ってばかり」
アンはそう言いながらなにやらわざとらしい哀れむような目を向けてきた。どうしてアンはいつもこうなんだろう。
「そんなことはいいとして、覚悟はいいかしら? ルピア」
「え?覚悟って?」
「ふふふ……ここにある穴に飛び込むだけよ」
アンはたいしたことではないかのようにいつの間にか目の前(空中)に現れた穴を指差した。
「えっ、ひとつ聞くけど……ここに入って大丈夫な保障は?」
「あるわ。ルピアは妖界でも高い魔力の持ち主だからよ。現に私は何度も入ったことがあるけど平気だったわ……ふふ」
全然保障になってない。
「《全然保障になってない》ことはないわよ。今まで何度も危険な目に会ってきたけど死にはしたことはなかったでしょ。こんなところで死ぬわけがないわ」
アンは珍しく何かを思い出しているように空を見つめていた。
「じゃあ、ルピアいってらっしゃい」
さっきとは打って変わってアンは何か楽しむような目をして私の背中を押した。
「えぇ!?」
体が宙に浮かんで私はただどこまでも続きそうな真っ暗な穴へと落ちていくしかなかった。
視界から光が消える直前、アンもこの穴の中へと入っていくのが見えた。
気がつくと目の前に巨大な通路にアンと二人で立っていた。
「いつの間に?」
「さぁね、ここに来るときはいつもこうなのよね……ふふふ」
「じゃあ、いこうか♪」
いつまでもここにいてもらちが明かないので、さっき少し忘れかけていた魔法陣探しを始めることにした。
そしてしばらくの間探し回ったあと私が疲れてきたので(アンはまったく疲れていなかった)少し休ませてもらうことにした。・・・・もちろんアンにからかわれながら。
「ふふ、ルピアって魔法の力は強いのに体力のほうは全然ないのね……」
「アンがありすぎるのよ」
「そうかしら……ふふっ」
ついでに私の言ったことが本当のこと。どんなに妖界人が体力を持っているといっても十時間以上歩きとうし(しかも周りを警戒しながら)だと普通は体力がなくなってしまう。
とまあ、そんなこと考えても意味ないから、昔から気になってたことでもアンに聞くか。
「ねぇ、アン。昔から気になってたことがあるんだけど、訊いていい?」
「何かしら……ふふ」
「えっと、昔私がまだ小さかったとき、王様のお食事会に行ったときのことなんだけど、そのとき王様がね、『うちの長男と次男のほうはどうしよもない馬鹿だが、その二人の下の姉妹のほうは頭がよく、まじめないい子だ』って自慢してたんだけど、それってたしかサリーとアンのことだよね?」
「そうよ」
「本人の目の前で言うのもなんだけど、今のアンってそんな感じしないでしょ? 過去に何かあった?」
しばらくの沈黙があった。
「ルピア、こういうことは今話しても楽しくともなんともないわよ……ふふふ、それにもうすぐでショーが始まるわ」
楽しそうに話してはいるが、全然目が笑っていない。訊いてはいけないことを訊いちゃったのかな? もう二度とアンにこのことを話すのは止めておかないとな。
「で、アン。ショーって何?」
「今に分かるわ」
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