Dark Rainbow
 
闇色の虹
 
脱出
 
 
 
 暗い通路はまだ続いている。体力の無いルピアとパークスは随分と息が切れてきている。
 
「ねぇこのままだと危険なんじゃあないの」
 
 息を切らしながらルピアが言った。
 
「でも魔物には魔法も効かないからなぁ」
 
 まったく息が切れていないサファイアはいつも通りの緊張感の無い声でつぶやいた。
 
「普通に言ってこのまま逃げ続けてもいつかは魔物に捕まるだろうな」
 
 ライアルもサファイアと同じで全然緊張感が無い。とても危険な状況なはずなのに。
 
「で、なんでサファイアたちは息が全然切れてないんだよ」
 
 パークスは何とか走りながら疑問に思っていることを言った。
 
「日ごろの鍛え方が違うからだろ」
 
 もっとも(または異常)なライアルの意見。
 
「つまり、日ごろの鍛え方によって、化け物並みの体力を手に入れることも、できるわけだな」
「そういうことだ」
 
 ライアルにパークスの毒舌は効果が無いらしい。そういえばライアルと会ってからパークスは少しずつ言葉による攻撃ができるようになってきているような気がする。
 
「そんなことより、どうやったらこの魔物から逃げ切れるのかそろそろ考えたほうが良いわよ」
 
 どんな化け物並みの体力もいつかはそれも無くなってしまう。とりあえず私は今考えなければならない問題を言うことにした。
 
「その心配は無いわ」
「え?」
 
 今までずっと発言をしていなかったアンが一言つぶやいた。気になってアンの方を向くと、なぜかアンは少しつまらなそうな顔をしていた。
 
「もうすぐで脱出できるわ」
「どういう意味なの、アン?」
 
 ルピアもアンの言葉の意味が理解できないらしい。と、アンは何を思ったのか闇黒球を出し、どこまでも続いているように見える通路の先にめがけて投げた。すると通路はうそのように消え、巨大な魔法陣が目の前に現れた。
 
「!?」
「一体どうなってるのよ!」
 
 ライアルは少し驚いただけだったが、私やルピア、パークスは完全に呆気に取られ、状況が把握できていないサファイアは声を上げてしまった。
 
「ふふふ、この通路には複雑な魔法がかけられていて、ここにたどり着けないように次元を捻じ曲げていたのよ」
 
 つまりアンはその魔法を暗黒玉でぶち破ったってわけね。(なんで今までしなかったのかは謎だ)
 
「そうなんだ。じゃあ、あの魔物はなんだったの?」
「妖界王が家宝を盗んだものを捕まえるように特別に育てていた、普通の魔物の十倍以上の力を持つといわれる魔物よ」
「家宝ってもしかして……」
 
 私にはライアルがアンの言っていた家宝を粉々にしたという事実を皆に話すことができなかった。
 
「へー、それならもしその家宝が粉々になったらどうなるんだ?」
 
 さすがに気になったのかアンにさりげなく訊くライアル。
 
「ふふふ、そうね、もしそうなったのならさっきみたいに魔物は一斉に襲い掛かってくるでしょうね」
 
 アンは最初から魔物に追いかけられている理由が分かっていたのね。
 
「ってことは誰かがあの水晶玉を壊しちゃったの!?」
 
 ルピアの顔が一気に青ざめる。隣にいたパークス、サファイアまでもが驚いたような顔をしている。
 
 それもそのはず、あの水晶玉は妖界王が数々の宝の中で最も大切にしていた物。もしこのことがばれでもしたら……
 
「そんなことはどうでもいいとして、今すぐこの魔法陣で逃げないと例の魔物達が追いついてくるわよ、ふふっ」
 
 水晶玉のことはどうでも良くないと思うけど、アンの言う通りだんだんあの魔物達が近づいてくる気配がしてきている。
 
「それもそうね。それじゃあアン、適当に魔界のどこかに移動しちゃって♪」
 
 さっきまでのショックから驚くほどのスピードで回復したサファイアは気楽にアンに瞬間移動を頼んだ。でもそれって確かとても危険なことなんじゃんいのかしら。
 
「ちょっと待って、適当にするのは危険よ。こういう時は慎重に」
「サリー、もう遅いわよ……今呪文唱え終わったところなんだから、ふふふふ」
 
 注意しようとしたけどそれはアンに遮られてしまった。そして次の瞬間、私たちは光に包まれた。
 
 光が収まるとそこは一面の草原の広がっている所だった。当たり前かもしれないけど、魔物が一匹も見当たらない。
 
 そして気がつくと私たちの目の前には十五歳くらいの少女が立っていた。隣でライアルとアンが少女を見て珍しく嫌そうな顔をしたように見えた。
 
「意外と帰ってくるのが早かったねぇ。私の可愛い弟」
 
 少女はライアルを見て(誰がどう見てもブラックスマイルと認める)笑顔で一言、そう言った。
 
 
 
 

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